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■ トラフィックは収益であるという考えかた
CNETでblogを書かれている佐々木俊尚氏の著作『Google』に、成田空港近くの駐車場の話がでてきます。簡単に説明すると、「Googleに広告を掲載することによって、チラシを挟み込むかわりに中間マージンを取る空港の業者とビジネスをしないですんだ」という話です。Googleの広告は、効率の悪い仲介手数料を排除し、的確に消費者に広告を届けることができる場合がある。それによってビジネスチャンスが生まれるという事例なのですが、この話は、「ネットによる新たな価値の創造」であると誤解されがちだと聞きます。
この話の本質は、広告費が新たに生まれたのではなく、既存の業者が必要なくなったということです。たとえ仲介手数料であっても、それが本質的には広告宣伝費であったことにかわりはありません。広告費という点から見れば、それまで中間業者に払われていたマージンがGoogleに流れ、効率的に運用されるようになったということなのです。インド、中国、ブラジルなど、ネットによって新たな価値が日々創造されている地域があるのは確かですが、日本のような先進国においては、サービスのより効率的な方法への置換という形でネットによるフラット化は進行していきます。
Google Adsenseが導入したのは「ネットのトラフィックが収入になる」という概念だと言います。わたしはこの言葉を東さんから聞いたのですが、至言だと思います。現在この仕組みは非常にうまくいっています。Googleの収益の伸びは鈴木さんの第2回エントリーにあるとおりで、これが、他のネット事業を引っぱる牽引力となっています。一方、IT系が連なる新興株式市場が安定しないなど、収益をネットに頼ることの不安要素もあります。
ネットにおける広告がわたしにとって気になるテーマなのは、現在のネットを動かす主な駆動力が広告費であり、新しい仕組みが生まれないかぎりこれからもそうなるだろうと予測できるからです。未来社会の中心に深く根を張るであろうネットの先行きを考える上では、ネットを支える原資を考えねばなりません。
ネットの広告はこれからどうなっていくのでしょう。マスの広告をすべて吸収するのでしょうか? それとも、今期の業績から見えるようにネット広告の伸びは減速し、ネットは他の収益源を探すようになるのでしょうか? 友人といろいろ議論した結果、「ネットの広告は、食料雑貨小売業におけるコンビニエンスストアの状態に落ちつくのではないか?」というアイデアが浮かびました。
・コンビニという形態は、登場時、革新的でした → web広告の革新性
・コンビニは、ニッチの需要を掘り起こすことによって発展しました → ロングテール
・コンビニは、地域の商店街を駆逐しました → 効率の悪い古いタイプの広告の駆逐
たいへんに整合性が取れています。コンビニの発展と比較することで、ネットにおける広告が将来どのようにシェアを拡大していき、どこでその発展がゆるやかな状態に移行するのかの具体的な像がイメージできるかもしれません。もちろん、両者が完全にマッチするわけではありません。
■ コンビニはどのように発展してきたか
「コンビニエンスストア」は、主に食料雑貨を扱い、売り場面積30平方メートル以上250平方メートル未満の小売店舗のことです。平均面積は110平方メートルです。
コンビニの発祥は、1927年、アメリカ・テキサス州のオーククリフという町のちいさな氷小売販売店までさかのぼります。日本では、1969年にマミー豊中店が開店しました。1974年にはセブンイレブン豊洲店がオープン、1975年にはローソン豊中店がオープンします。日本のコンビニ第1号店には諸説あるのですが、ここでは、コンビニという業種が拡大する発端となったセブンイレブンを元祖として話を進めます。
1974年にスタートした日本のコンビニですが、1988年に10,000店を突破、1992年には20,000、1996年に30,000、2002年に40,000店を突破しました(フランチャイズ店のみのデータ)。10,000店増えるのにかかった年数は、それぞれ、14年、4年、4年、8年で、1990年代中盤がコンビニがもっとも増えた時期だったことがわかります。コンビニは、新規出店するだけでなく、日本各地にある効率の悪い個人商店をフランチャイズ化して傘下に収める形で勢力を拡大していきました。誕生から30年を過ぎた現在、日本の6割の地域で500メートル以内にコンビニがあると言われており、さすがに店舗数の伸びは鈍化しています。
スーパーなどに比べると、コンビニは、店舗スペースに比較して商品の品種数が多いです。また、POSシステムで収集した売り上げデータによって、その地域特有の売れ筋商品を集中して置くのも特徴です。それは、「よく売れる」というだけではなく、家庭に常備されていない商品をストックしているのだとも言います。慶弔に必要なものや文具、すぐに食べる弁当なども、家庭にはストックされていません。顧客の要求に合わせるため、弁当やおにぎりなどは1日3回の配送に合わせて3回生産します。こうしたきめ細やかな顧客の需要への対応は、日本のコンビニで生まれたものです。日本のコンビニでは、その地域の顧客のニーズによって商品陳列棚が形成されるようになったのです。
1990年代、不況により他の業種が低迷する中、コンビニは業績を伸ばしつづけました。しかし、2000年代以降、コンビニの店舗数は飽和状態に近づいているといい、競争が激化しています。また、スーパーやドラッグストアの営業時間の延長や100円ショップの台頭などの理由から、利益が上がらず閉店する例も増えるようになりました。コンビニはスーパーを駆逐しませんでした。多くの人々は、利用目的に応じてスーパーも使うしコンビニも使います。
コンビニの小売業全体に対する売上高のパーセンテージは、現在0.5割です。小さい数字に見えますが、これは小売全体に対する数字です。車や電化製品の販売も小売です。食料雑貨売上高は小売全体の約2割程度らしいですから、たいへんに乱暴な言いかたをすれば、食料雑貨の1/4がコンビニで売られていることになります。
これは十分に大きな数字です。
■ ネットの広告がコンビニ化した未来社会
コンビニのスタートを1974年と考え、ネット広告がいまはじまったと考えると、いまから10年後のコンビニの姿が2045年のネット広告の姿だと言えるかもしれません。この場合のマスの広告は、イオン、イトーヨーカ堂、西友などの総合スーパーです。コンビニがスーパーを駆逐しなかったように、ネットの広告もマスの広告を駆逐しませんが、一定のシェアを確保していることが予想できます。ネット広告は爆発的普及の時代を終え、「フツーのもの」になります。効率の悪い小売店をコンビニが市場から駆逐したように、フラット化によって中間搾取は解消されます。
ユーザー側から見たTVとネットの区別がなくなっている可能性は十分にあります。人々は、目的と欲求に応じて、それに適したメディアに触れます。問題はそのメディアの中身(商品)であって、それがマスかネットか(スーパーかコンビニか)ではありません。現在はネットのトラフィックが他のメディアに比べて純増していますが、最終的には、人々がネットに費す時間は平衡に達するでしょう。そのとき、いわゆる現在で言うところのトラフィックの多寡は、他のメディアのトラフィックと比較されるのではなくネット内の他のトラフィックと比較されるようになります。すなわちそれは、トラフィックの視聴率化です。
ある程度普及したあとのコンビニの競争相手はコンビニです。同様に、すべてがセグメント化され、その人に最適化された広告が送られるようになったあとは、ネットの広告の競争相手はマスの広告ではなくネットの広告となるでしょう。検索連動型広告などは、もともと情報の受け手のニーズに合わせて宣伝する商品を変えるシステムですので、その商品の宣伝に大量のお金を投入したい企業側の論理との整合性は取れません。POSシステムの結果=人々がなにを欲してるか、によって商品が変化するコンビニの棚と同じです。
コンビニ専売商品が開発されたように、ネット特有の広告も次々と開発されます。blogやSNSを利用したバイラルマーケティングはいまやあたりまえのものになりましたが、口コミをばらまくのは、いずれ中国の大連で募集された日本語に堪能な大学生になるかもしれません。リンクの売買やクリック価格の格差で稼ぐ行為も当然のものとなります。その一方で、anti spamソフトのように、ブラウザ(相当のもの)にはanti viral機能が装備され、巧妙な広告といたちごっこを繰り広げるようになります。プログラムによる機械的なviral判定はblogだけでなく新聞記事にも及び、なにを信じればいいかという人々の心を揺さぶります。あるいは、アニメDVDのセグメント広告が数種類つくられ、ランダムに送付されるようになるかもしれません。Aさんはヒロインのポンコツ少女が好きなのに、ライバルのツンデレや眼鏡っ娘が出てくる広告しかゲットできず、ヒロインに当たるまで各種会社に登録しまくる、などという状況も発生します。
いずれにせよ、マスの広告とネットの広告は、スーパーとコンビニのように共存し、ユーザーとしてのわたしたちはその違いをあまり意識しないようになるのでしょう。ネットに広告費が投下されるようになるということは、ユーザーの生の声だからこそ信じていたネットの書き込みが資本によって歪められるということであり、わたしたちはそれらの真偽をいちいち確かめなくてはならなくなるということです。未来の住人は、それぞれの基準をもって、新聞・雑誌・ラジオ・TV・blog等の記事を判断せざるをえません。人々がコミュニティーを形成する原動力が、そうした判断基準に因る傾向はこれからどんどん増していきます。情報技術(内面)を要因とした社会形成と対になる形で、身体性に根差した堅牢なアーキテクチャが世の中の基盤を形成するようになるのは、東さんの前回のエントリーのとおりです。
まるで、フィリップ・K・ディックが描いた未来社会のようですね。
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