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ギートステイトの舞台「南関東州」

2006/09/30 14:55
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ギートステイト制作日誌

2045年の日本を社会学や情報技術といった視点から描き出すプロジェクト「ギートステイト」。批評家の東浩紀氏、エンジニアの鈴木健氏、小説家の桜坂洋氏の3人が「未来」の制作過程をお伝えします(このブログの更新は2007年1月4日で終了しました)。
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こんにちは。東浩紀です。

さて、前回のエントリで新体制について告知すると言っておきながら、なかなかお知らせできなくてすみません。ちょっと事態が複雑化して、再調整中です。

とはいえ、来年初めより、あるサイトで、桜坂さんの小説と僕の設定が組みあわさった連載が始まることは確定しました。小説と設定が組みあわさる、といってもイメージが湧かないと思いますが、複数の物語が縦糸として同時並行的に展開するなか、背景知識や隠れた登場人物の動きとかが横糸の註釈として張り巡らされる、という感じを考えています。むかしチュンソフトの『街』というゲームがありましたが、あれが近いイメージですね。イラストもつくはずです。

実際の展開時には、小説がどーん、設定がどーん、と公開されるのではなく、それぞれ小さいユニットに分けられて、断片が日々更新され、徐々に全体像が見えてくるような演出がされるはずです。桜坂さんは、「ネットでは毎日更新がデフォルト」と息巻いていますが、僕にはそんな体力はないので、もう少し現実的な更新頻度になるでしょう。というより、いまのところ僕ばかりがセコセコと設定原稿を書きためているわけだけど、本当に桜坂さんは大丈夫なのでしょうか……。

そんな彼は、明日から取材旅行で海外だそうです。いいなー。

さて、そんな心配と羨みを抱えつつ、今回はギートステイトの舞台となる「南関東州」の設定を紹介します。南関東州の基本設定はこんな感じです。

南関東州は、2020年の地方分権基本法(道州法)により誕生した10州のひとつである。旧東京都(23区を除く)、埼玉県、神奈川県、千葉県の領域を占める。人口2675万人。うち日本国籍2380万人、外国籍295万人。州都よこはま市。

南関東州は、東京23区を行政区域のなかにもたず、経済的な求心力が拡散した州として出発したため、2020年代に深刻な不況と財政危機に直面した。その危機を乗り越えるため、同州では2つの施策を打ち出した。ひとつは大胆な行政解体、もうひとつは外国人「単純知的労働者」の大幅な受け入れである。

2045年現在、南関東州の行政は極限まで縮小され、社会保険から交番の運営まで、公共サービスのほとんどが市場化されている。同州では、受益者負担と自己責任の原則が徹底されており、多くのサービスが有料で提供される。税は他州に比較して安く、健康保険や国民年金は任意加入となっている。地方所得税や固定資産税、相続税(2030年に州財政に移管された)が安いことは、同州に富裕層やベンチャー企業を呼び寄せる要因となっている。他方で、地方消費税率が低く、小売価格が東京特別市よりも平均して数%安い環境は、低所得者層も呼び寄せている。2020年代後半に始まったこの行政解体は、南関東州の危機を救ったが、結果として、富の格差、そしてそれに付随する生活環境の格差を急速に拡げることにもなった。2045年現在、同州のジニ係数は0.5を超えており、失業率は8%を超えている。

他方で、南関東州は、生産人口の急減に対応するため、2020年代後半より外国人労働者の居住資格を漸近的に緩和した。2020年に73万人だった外国人登録者数は、2045年には295万人にまで急増している。その過程で大きな役割を果たしたのが、2033年に始まった単純知的労働者の受け入れである。当時は、ゲームプレイ・ワーキングの参加者、いわゆる「ギート」が急増し、国際的に社会問題となり始めていた。中国ではその前年に非合法化されていた。そのようななか、ゲームプレイ・ワーキングの参加者を「単純知的労働者」として公的に認定し、オンラインの労働実績に応じて就労ビザを発行する南関東州の政策は、彼らのライフスタイルに門戸を開くものだった。2033年から2045年までの12年間で、同州の在留外国人は183万人増加している。そのうち72万人が、アジア諸国出身のギートである。

2045年現在、南関東州では、日本人を含めると総人口の6%近く(生産人口の13%)、150万人がゲームプレイ・ワーキングに従事していると言われている。このため、南関東州はしばしば「ギートステイト」とも揶揄される。

この制作日誌の読者層は、僕のもともとの読者層とけっこう離れているようです。だとすれば詳しく説明しないといけないのかもしれませんが、この南関東州の設定は、実は、僕が「テクノリバタリアニズム」とか「環境管理」とか呼ぶ新しい社会秩序の実現として作られています。「環境管理」については、最近ITmediaで記事が出たので、そちらを読んでいただくとよいかもしれません。

南関東州は、高度な情報環境に支えられた、ある意味ではたいへん自由で豊かな、別の意味ではきわめて管理とセキュリティの厳しい、ポストモダンなユートピア/ディストピア社会です。言いかえれば、なんとなく普通に暮らして、自分の快楽と幸せさえ考えていれば、国家とか自由とか権利とかヘビーな話はだれかがバックグラウンドで処理してくれる「動物的」な社会です。

それは、経済的で技術的な豊かさを追い求めながら、伝統や政治やイデオロギーの問題をほとんど軽視してきた、戦後日本の歩みの延長線上にある社会でもあります。ご存知のように、そのような能天気な考えは、ここ数年きわめて強い反発を買っています。これは保守でもリベラルでも同じことです。いまの若い世代は、かつてよりはるかに「国家」や「日本」を話題にしています。危機感をもて、伝統を守れ、教育をきちんとしよう、しっかり政治について考えよう、というわけです。

しかし僕は、そのような風潮は、大きく見れば、短期的で局所的なものにとどまると考えています。確かに、世界には真剣に考えなければならないことは多い。そして、真剣に考える人も出てくるでしょう。しかし、多くの人々はそのようなことは考えたくないだろうし、また社会は、人々からなるべく「ものを考える負担」を取り除く方向に向かっていくに決まっている。情報技術はその流れを加速するし、偶然かもしれないが、戦後日本の能天気さは、そのようなテクノリバタリアン的(技術自由至上主義的)な流れと親和性が高い。

したがって、日本は(ある意味で残念ながら)、今後ますます「ものを考えない」国になっていくでしょう。もしそうならないとしたら、それは日本が大きな経済的危機を迎えるか、あるいは戦争でも始めるときなので、そのほうがやばいのです。この作品では、とりあえずそちらは考えず、半世紀のあいだぬるぬると平和が続き、日本はすっかり「ものを考えない」国になったとしておく。そして、南関東州は、日本のなかでも、そんな「ものを考えない」性格がとりわけ強い地域という設定です。

誤解を避けるために付け加えますが、これは必ずしも、国が衰退する、社会が崩壊するということを意味しません。むしろまったく逆です。

人々がものを考えないでも生きていける、というのは裏返して言えば、バックグラウンドで機能している社会環境が優秀だということです(しばしば出す例ですが、「セキュリティ」という言葉は、語源的にはse+cura、つまり「心配しない」ということを意味しています)。まさにそのために、南関東州では、ユビキタスな情報環境の「サービス」、別の言い方では「管理」がすみずみまで張り巡らされている。それをユートピアと呼ぶか、ディストピアと呼ぶかは、それぞれの価値観に依存するでしょう。

そして僕としては、そんなユートピア/ディストピアの可能性とともに、その盲点や起こりうる社会問題についても考えていきたいと思っています。たとえば、環境管理社会の到来はよいとして、そのときに管理技術を社会の多様性の拡大のために用いるのか、それとも多様性の排除のために使うのかは、社会が決めることです。しかも、それは一概に決められません。上述のように、南関東州は外国人労働者の受け入れを積極的にを選んだ地域として設定されています。しかし、そのために南関東州は、治安目的での住民管理を徹底せざるをえず、結果として犯罪履歴のある人物やホームレスには生きるのが厳しい地域になっています。現代思想系の言葉を使えば、「公共圏がネオリベ化している」のです。

外国人労働者にしろ、犯罪履歴の扱いにしろ、いまでも重要な問題です。そのような問題を、2045年の南関東州という一種の思考実験として考えてみるのも、このギートステイト・プロジェクトの目的のひとつです。

ところで、希望が多かったので、去る8月のコミケでこっそりと販売した同人誌、『ギートステイト・ハンドブック』の通販を僕のサイトで始めました。

ここで販売しています。南関東州の設定も、そこには全文掲載されていますので、興味をもったかたはお買い求めください。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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