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■ バラエティー番組で起きている情報の連鎖
キッズステーションの稲垣さんとこのあいだお会いしました。スーパーダッシュ文庫でわたしの担当編集だった稲垣さんは、現在、『ギャグマンガ日和』のプロデューサーをしているそうです。彼はわたしに言いました。
「桜坂さんは見たことないかもしれませんけど……」
「そんなことないです。見ましたよ。YouTubeで」
そうです。わたしは、この作品をYouTubeで見ていたのです。(ごめんなさい)
Web 2.0(笑)時代の広告学の第1回におもしろいエントリーがあります。TVはつまらないのにTV番組の1シーンをYouTubeで見ている状況が発生している、というのです。この現象はわたしにもあてはまり、TV番組はほとんど見ないのに、はてなの「YouTubeの注目エントリー」を毎日チェックしています。YouTubeというフィルタを通すことによって、TV番組がおもしろく感じるようになるのです。これはなぜなのでしょう。
以前、ヒマにまかせて1日中だらだらとTVをつけていたわたしは、バラエティー番組がネタを使い回していることに気づきました。その傾向は、昼間に放送される情報バラエティー番組で顕著でした。
(1) ある日、Aというチャンネルでαという情報が紹介され、コメンテーターが驚く(初出)
(2) 何日か後、Bというチャンネルでαという情報が紹介され、コメンテーターが驚く
(3) さらに何日か後、Cというチャンネルでαという情報が紹介され、コメンテーターが驚く
このαは、「ヨルダンの戦争」や「自民党総裁選」といったレベルではなく、「どこそこの村で蛇が直立しバアさんが驚いた」とかそういうレベルの、数日空けて複数のTV局が取材に行くなどとは考えられないほどちいさなトピックのことです。こうした紹介が三連鎖したのをわたしは見たことがあります。同じプロダクションが番組を制作しているのか、他局の番組を見ていたプロデューサーがネタをパクることにしたのかはわかりません。ハイパーリンクもトラックバックもないTVでは、ネットと違い、αというネタが紹介されるたびにゼロから説明し、同じ場所で笑い、同じ場所にツッコみ、同じ場所でしんみりするのです。才能あるコメンテーターが興味深いことを言うことはありますが、それもゼロから組み立てた論であり、話題の発展性は限定されます。
こうした情報の連鎖がTV発の流行を作るという側面もおそらくあるのでしょう。しかし、それは、自ら波に乗るというより波に乗らされている感覚に近いとわたしは感じます。ネットの情報の連鎖がもたらす高揚感に慣れてしまうと旧来のメディアがつくる波のエッジのぬるさを物足りなく感じますし、嫌いな波がつづけばそのメディアそのものをしばらく見なくなってしまいます。これは、TV番組というコンテンツが現在抱える根深い問題のひとつです。
■ YouTubeがTV番組にもたらした「解釈」
視聴者の「時間コスト感覚」が高くなっていると、最近感じます。「だらだらと続くTV番組につきあうほど自分の時間は安くないのだ」と、一部の視聴者は考えはじめています(本当に時間が高価なのかどうかは置いておいて)。実は、これは、新聞が読まれなくなっていることにも繋がります。
時間を浪費せずニュースを手に入れるために新聞はあるはずなのに、新聞というメディア=情報の送り手側、の都合で紙面がつくられるようになって久しいです。そのため、新聞社の意見に同調できた世代はともかく、より若い世代にとって、現在の紙面に並べられたニュースを読むよりはGoogleによって検索され機械的に並べられたニュースを読むほうが時間コストが低くなってしまっているのです。TVも同じで、漫然と見ることに慣れた人々に最適化してしまっています。
このように、TVも新聞も、一部の受け手のニーズに合わなくなってきています。ネットの普及によって、ニーズに合わない人々の割合が拡大していくという状況はこれからもつづきそうです。短期的に見た場合、TVや新聞が送り出すコンテンツが受け手のニーズからずれていく状況は変わらないでしょう。長期的には、新聞社もTV局も運営している人々は優秀ですから、新しいニーズに照準を合わせなおすだろうと思います。
一方、現在放映されているTV番組の一部分が非常におもしろく興味深いことは事実です。TVという石の海の中から自分の手で玉を見つけ出す行為にわたしたちは疲れてしまいましたが、誰かが玉を見つけてくれれば視聴はやぶさかではないのです。
そんなときにわたしたちの前に現れたのがYouTubeです。
YouTubeによって、わたしたちは、TV番組の中からおもしろい情報だけをピックアップして見ることが手軽にできるようになりました。YouTubeとblogを使えば、TV番組という文脈の中から切り離された情報を、情報単体として見、解釈することができます。blogは解釈の擦り合わせ過程の公開であり、コメンテーターのコメントが次の番組に受け継がれるということと同義です。わたしたちは、興味のある情報についてだけ、途切れることなく連鎖を追いつづけることができます。その行為は「祭り」と言われているものにも似ています。
実は、番組や紙面といった文脈から情報が切り離されて独自に解釈されることを旧来のメディアは非常に嫌います。「情報そのものではなく情報の表現の仕方、すなわちコンテンツにこそ著作権が発生する」という著作権法の理念にも関係していてこの問題は複雑なのですが、一度手に入れてしまった「コンテンツの断片の解釈」という楽しさをわたしたちが手放すとは思えません。漫画の世界では、すでに1980年代に二次創作という形でこの種の対立が起きていて、非常にゆるやかにではありますが新しい秩序が醸成されつつあります。
ネットの普及によって、いまや、紙面やTV番組も断片として解釈されるようになりました。ネットの発展は分断を嫌うコンテンツの配信者にとっては受難の時代の幕開けであると言えるでしょう。
■ 小説における解釈
「ギートステイト」は、発案者の東さんの意向によりネットで発表することが決定しています。いろいろな解釈をされている「Web 2.0」という言葉が、「コンテンツの断片が検索エンジンにさらされさまざまな解釈をされるようになること」だとすると(これもまたずいぶんとメタな物言いです)、「ギートステイト」も、分断され断片が個別に解釈されることになるでしょう。というか、分断や解釈を嫌うコンテンツは、ネット上にあっても存在しないのと一緒であると言えます。
他方、小説というのものは、通常1冊毎にパッケージングされ商品となります。非常に手軽で、安価で、今後電子ペーパーが出現するまでは可読性と持ち運び安さを計りにかけたときに最適の媒体です。また、小説は、言葉だけで構成されており、言葉から受け取るイメージは読み手によってそもそも異なっています。
たとえば「青い空」と書いたときに読み手がイメージする「青」はひとり一人違い、個々人間のイメージの隔たりようは他のメディアと比べても圧倒的です。そのため、ある解釈をするための言葉はその文脈においてどのように使われているか解釈するといった解釈の迷宮に入り、結局作者の人生やら人格までさかのぼらなければならないということがかつての文学研究では一般的だったと言います。
断片に分解され、断片のみを解釈するということに対して小説はシステム的にあまり開かれていないのです。
さいわいなことに、わたしがデビューしたライトノベルというジャンルは、キャラクターを主軸に物語が成立することが多く、物語から独立したキャラクターは読み手間で共通認識化した後、2.0的な解釈をされることが多いです。「属性」と呼ばれるものもその一種です。よって、ごく普通の小説よりはやや2.0的であると言えるでしょう。
小説とその設定を発表する場をネットにしたというだけでは、小説のシステムの堅牢さがあだとなり、小説が持つ未来の可能性を十分に発揮できないかもしれません。「ギートステイト」では、そうしたことへの突破口のようなものも考えてみようと思っています。商業作品ではないのですが、『和風Wizardry純情派』のやりかたに可能性が秘められている気がします。
「ギートステイト」の企画会議に参加していておもしろいのは、東さんとわたしや鈴木さんの思考方法の違いに気づかされる点です。たとえば、東さんは、事象の数がある程度以上になれば世界のルールは解釈によっていくらでもつくれるようになる、と考えています。鈴木さんやわたしは、まずルールがあり、ルールに沿って個々の事象を決定すべきと考えます。世界をつきつめていくとどこかに根本の法則があるに違いないと理系大出身のわたしは思うため、後者の考えのほうが馴染みがあるのですが、「ギートステイト」では、2.0的に解釈の多様性を追及してみたいと思います。
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