たまたま本屋さんで目に付いた高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院という本を読みました。高学歴ってどのあたりのことを指しているのかな?と思ったのですが、博士のことのようです。本書は、基本的には、大学院重点化計画によって、大学院の博士課程を修了して「博士号」を取得する人が増えているが、博士課程まで進んだ方を受け入れてくれる大学や企業のポストが少なく、正規雇用者として就職できないという現状について書いてあります。ただ、この本の筆者の方は、最初の方で「企業は博士卒を必要とはしていない」と言い切ってしまっており、博士号を取得したら「大学教員になるもの」ということを暗黙の前提にしてしまっているようです。少子化によって大学や大学院の定員に対して受験者が少ない状況が今後も続き、大学や大学院が淘汰されていくような状況の中、新たに博士号を取得した人たちの大学教員のポストは少なくなるのは当然のような気がします。あと、今、業績を出していない大学教員がいつまでも大学に居座っているから自分たちのポストがないという感じで、現在の大学教員に対する恨み節のような内容になっています。 「博士号」を取得した人は、大学教員になるしか道がないのであれば、確かに、その主張は理解できます。本当にそうなのでしょうか?
本書で、少し気になったのは、「博士号」を取得した人は、取得していない人(例えば、博士前期課程を修了して企業等に就職した人)と比較して何が良いのでしょう?例えば、本書に『大学院生には、すべてのことに対して自ら問題を設定し、仮説をたて、あるいは最後に導き、それを検証し、自ら解答を得ることが求められる。<省略>日々の生活のなかで、思考を鍛える訓練や思考実験などを繰り返し行っていくこと。これこそが、大学院生が大学院に在学している間に与えられる環境であり機会なのである。』とあります。また、他にもいろいろと書いてあるのですが、この程度のことは、通常、企業にいてもやる話で別に「博士号」とはほとんど関係ないと思います。
逆に、博士の方は『企業側が「博士卒は視野が狭い」』という理由を考えたことがあるのでしょうか?実は、博士課程に進んで研究を進めると、思考自体が論文を書くための思考になってしまうになってしまいます。まず、前に引用した『自ら問題を設定し』で設定する問題は、無意識の内に「論文が書ける問題」になってしまいます。そして、問題をモデル化したり、仮説を立てたりするわけですが、その段階で、「論文にならない部分は排除」されてしまいます。このとき、簡単化するために、本来の問題の中からいくつかの瑣末(論文にならない)な問題は前提からはずされてしまいます。そして、そのような問題と仮説を元に検証することになるわけです。このように進められた研究は学術論文にはなるかもしれません。しかし、企業がそれを元に商品化をしようとすると、実は、ほとんどそのままでは使い物になりません。商品化するためには、学術論文からは排除されている部分が重要だったりするのですが、その部分は論文にならないために、大学などではほとんど手を出しません。また、大学教員は、一般企業に就職しないまま教員になることが多いので、そういった部分の重要性をまったく理解していません。
一方、博士前期課程あたりで企業に就職すると、論文になる問題だけではなく、商品化するために論文にならない問題をこなすことになります。そうやって、30歳くらいになったとき、企業から見るとどちらの視野が広いと思いますか?博士課程は、あまりに論文主導型になりすぎているために視野を狭くしているような気がしています。
もう随分昔の話ですが転職の面接のときに、「あなたは何ができますか?」という質問に「部長ができます」「課長ができます」と答えた人がいたという話が話題になりました。まさか「博士号」を取得している人に「あなたは何ができますか?」と質問したら、「博士号を持っているので大学教員ができます」「博士号を持っているので研究員できます」なんて答えが返ってきたりしませんよね?でも、本書を読んでいると、あながち冗談ではないような気が・・・
これから博士課程に進学を考えている人は、本書のような現状を理解した上で高学歴ワーキングプアにならないように自身で何らかの手を打った方が良いのかもしれませんね。
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tanagai63さん、きむこうさん、コメントどうもありがとうございます。返信が大変遅くなってしまい申し訳ございません。
一般企業で商品開発や研究を経験しないまま大学教員となる方も多いそうで、そうした教員の方は企業の要求しているスキルを実感として理解はしていないでしょうね。企業の要求を実感として理解していない教員の方が指導する訳ですから企業が要求しているスキルと大学の博士課程で身につくスキルに乖離ができてしまうことは予想されます。そうした環境に長くいた博士課程の学生の方を採用するよりも、修士くらいの方を採用して企業内で鍛え直した方が企業としては使えるという話があるでしょうね。大学の研究テーマに近い内容を企業内で継続できることは今はほとんどなく、まったく新しいことをやって頂かないといけないので、若い方が良いでしょうし・・・