『風が吹けば桶屋が儲かる』理論のようにも聞こえますが、そこにはこんなカラクリが。
著作権についての議論で必ずやり玉にあがるJASRACですが、実は2001年に施行された「著作権等管理事業法」によって、音楽についていえばJASRAC以外にも13団体が著作権管理事業を行っています。JASRACはこの事を何かと引き合いに出して「決して独占しているわけではない。著作者が自由に選択できるんですよ」と声高に言っているが、ほとんどの人がそういう認識を持っていないし、実質ほぼ独占状態のままです。
まず、どのくらいの独占状態なのかファクトを見てみましょう。
著作権管理については、1939年の「著作権に関する仲介業務に関する法律:仲介業務法」の施行がそもそもの始まりです。これは、参入規制として文化庁長官の認可が必要だったため、一業種一団体となり、音楽業界ではJASRACしか管理団体は存在しなかったわけです。
これを改変した「著作権等管理事業法」は届出制となったため、法人で一定の要件を満たせば誰でも参入できるようになりました。「著作権等管理事業法」の施行後、3年経った2004年の著作権使用料徴収額は以下の通りです。
JASRAC:1,100億円
ジャパンライツクリアランス:3.6億円
イーライセンス :3.4億円
音楽業界での14ある管理団体のうち、JASRAC以外を合計しても10億円程度の徴収額にしかなりません。数字をみればそこそこの金額に思えますが、JASRACの1%でしかないという状態にあるのです。
『信託期間は5年』というカラクリ
制度が変わったにもかかわらず依然として独占状態が続いている理由のひとつに、『信託期間が5年』という約款があります。
2001年10月の「著作権等管理事業法」施行の際に、JASRACは著作権信託契約約款の条項である信託期間を5年としました。この時点で12,000人いる信託者(作詞者、作曲者、音楽出版社など)を2006年まで囲い込んだことになります。これではJASRAC以外の団体は新人などそれまでJASRACに登録していない著作者しか扱えないわけで、徴収総額が増えないのは当然です。
信託期間については、2005年9月に改訂され、期間が5年から3年に短縮され、再委託制限も廃止されてはいますが、ちょうどいま契約更改の時期にあって、JASRAC以外の団体に管理を委託するメリットは数字の上では見あたらないと言えます。
分割委託できない『支分権』というカラクリ
2001年以前は、JASRACに信託するということは、権利者がその時点で創作したすべて、さらには将来創作するものすべてのあらゆる権利を信託財産として預けることを意味していました。
「著作権等管理事業法」の下では、支分権という権利の分け方に沿って委託範囲を自由に選べるようにして、権利者が他の管理団体に部分的に信託できるように変更されています。つまり、本当は『分割委託できる支分権』なのです。ところが、この支分権がくせものです。その辺りを説明するために、少し著作権法の話も交えて説明していきます。
JASRACが約款で規定している支分権は以下の図1にあるように、演奏権/録音権/貸与権/出版権の4つが基本であり、録音権の中にはさらに細かく映画向け、ビデオ向け、CM向け、ゲーム向けなど分かれています。

ちなみに、著作権法でいうところの支分権は以下の図2にあるような8つに大きく分かれていて、そのなかでもっとも本質的なものは複製権であり、他の支分権も複製権の詳細と解釈することもできます。

JASRACの約款では、権利者が管理委託できる選択区分は図1にある4つの支分権なのですが、実は曲毎に選択を変更することができません。
つまり、権利者Aは曲A1の『演奏権』をイーライセンスに委託して残りをJASRACに委託する、同じく権利者Aの曲A2の『録音権』をイーライセンスに委託し残りをJASRACに委託する、というような選択の仕方はできないのです。
可能なのは、”権利者Aのすべての楽曲の録音権をイーライセンスに委託し残りをJASRACに委託する”というように、一括処理を前提とした選択しかできません。さらに、着メロ、着うた、音楽データ配信などの『インタラクティブ配信』については、以下の図3に示すように複製権や録音権、公衆送信権など複数の権利が多重的に関係し、これらをJASRACの支分権に当てはめると、4つの支分権すべてに絡んでしまうために、事実上分割委託できないことになってしまうのです。

逆に、『インタラクティブ配信』を他の管理団体に委託してしまうと、映画向けの録音、ビデオ向けの録音、CM向けの録音、ゲーム向けの録音もすべてその管理団体に委託することになります。
JASRAC 著作権信託契約約款 [PDF:83KB]
「決して独占しているわけではない。」と主張しているは制度的には正しいですが、現実問題としてはこのような巧みなやり口で相変わらずの独占状態であることはファクトからも明らかです。
支分権、特にJASRACが決めている選択区分においては、デジタルメディアでの利用形態を適切に網羅していないことははっきりしていて、その根幹となっている著作権法そのものが権利と利用形態のミスマッチを内包している限りこの問題は解消されないと言えるでしょう。
デジタルメディアに合わせた著作権関連法案はとかく『複製禁止』に偏っています。
いま注目しているのは、このガチガチの法律のもとではなく、創作者と利用者の合意によって成り立つ権利保護の仕組みとして、スタンフォード大学ローレンス・レッシグ教授が提唱した『Creative Commons』です。
これについてはまた後日詳しく紹介します。
Creative Commons
http://creativecommons.org/
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
http://www.creativecommons.jp/
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
Anz! on 2006/06/22
Anz!さん、いろいろと貴重なコメントありがとうございます。
コメントとして残すだけではもったいないですね。blogでトラックバックしたい内容です。
第二JASRACというか、これまでの放送局とレコード会社という枠組みとは別の枠組み(インターネットやポッドキャスティングを使ってとか)で勝負するようなところが出てきて欲しいものです。元SMEの丸山茂雄氏なんかがもっとがんばってくれると良いかなと思ったりします。
sakuraya on 2006/06/22
こんにちは。
イーライセンス等が放送へ割り込めないのは厳しいですね。ジャスラックと放送局との癒着説も多々ありますが、イーライセンス等が放送局と提携するに足るだけの魅力を持っているという事を放送局に示しうるだけの何らかの展開を考えて欲しいものです。
イーライセンス立ち上げ時に三野さん(字あってましたっけ?&まだ社長?)が言っていた「権利ビジネスは預かった曲を使ってもらってこその物である」と言っていました。預かった曲を分配するだけのジャスラックよりもずっと魅力的な言葉でしたが、実際にはほとんど何もしていないように見えます。
あの頃は「インターネットに音楽を置いとけば欲しい人は買ってくれる」的な楽観論が結構あったと思いますが、世の中そう甘くはなかったという...
おそらくレコミュニ(サイト名あってましたっけ?)とかはイーライセンス系列だと思いますが、立ち上げ時にイーライセンスに登録している人全員に声をかけたとは言いがたいわけで、この辺もビジネスプランに疑問符が付いてしまいます。
残念ながら現状ではジャスラックが勝ちなわけですが、実際の所ジャスラックは小さなカラオケ店までチェック要員が回っているわけで、自主的な努力は
Anz! on 2006/06/21
Anz!さん、コメントありがとうございます。
イーライセンス含む他の管理事業者がなかなか大きくならないのは、委託者側(権利者)と利用者(放送局など)へ提供できるメリットがやはり少ないからと言えます。
また、利用者が使いたい楽曲について、どこが管理しているか調べるときに、メタデータベースのようなものがないので、どこにコンタクトすればいいかわからないとか、そういう利便性の問題もありますね。
せっかく規制緩和で自由化されたのですが、先行者であるJASRACの優位性を覆すだけのサービスを展開できないことが他の管理団体の課題でしょう。
GRACENOTEのような楽曲データベースが著作権管理と連動するのが一番わかりやすく利便性の高いサービスになるようにも思います。
sakuraya on 2006/06/20
イーライセンス等は、折角の著作権管理のためのビジネスチャンスを生かせなかったのでは?例えばインターネットでの配信で、yamaha music e-club ではイーライセンスに登録した事がかえってアダになってしまい、楽曲登録できない人が出たり...これはジャスラックの権威のせいとは考えにくいです。
更に、個人扱いで支分権管理を外しても、同時に個人管理可能な出版社を立ち上げて、権利を流動的にコントロールする方法もあるのでは?
Anz! on 2006/06/19
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恐れ入ります。
また関連記事等ありましたら、書かせていただきたいと思います。インターネットの配信で一番盛り上がったのは mp3.com だったでしょうか...なにせ最盛期は月に1億円以上の印税が分配されましたから、一番儲けた人は、無名なのに月180万円くらい稼いでましたからねえ。第二ジャスラックも真っ青ですね。
ではでは!