米国時間5日に突如としてリリースされ、その後のパーソナルテクノロジの話題をほぼ独占した形のApple純正デュアルブート支援ツール「Boot Camp」。その後にリリースされたParallels Software Internationalによるデスクトップ仮想化ソフトウェア「Parallels Workstation 2.1 for Mac OS」や、開発の噂が囁かれているApple純正仮想マシンソリューション等、ここ数週間で急展開を見せているMacintoshのマルチプラットフォーム化について、これまでの一連の動きや既知の情報等を、Microsoftを始めとする他プロジェクトの動向も含めた形で今一度振り返ってみたいと思います。
まずは衝撃のリリースとなった「Boot Camp」に関してですが、現時点では期間限定の試用版としてライセンスされるプレビューソフトウェアとしてのリリースとなっており、製品版自体は8月に開催予定の開発者向けイベント「Worldwide Developers Conference(WWDC)2006」にてプレビュー予定とされる「Mac OS X 10.5 Leopard」の機能の一つとして提供されるとの事で、同イベントではBoot Camp自体のプレビューも行われるとされています。アップルサイドからは、Boot Campのインストールや利用に関するサポート、及びWindows関連ソフトウェアの販売、サポート等は行わないといった事が表明されており、現状ではWindowsをプレインストールしたMacintoshがリリースされる予定はないと伝えられています。あくまでも多くの顧客からもたらされた関心や要望に対する一つの答えである、といった事が強調されていますが、今後製品版にバンドルさせる予定がある以上、ある一定範囲内でのサポートは必要になってくるでしょう。尚、フィードバックは積極的に受け付けるとの事で、現時点で必要とされているシステム構成は、
とされており、Windows Vistaに関しては明確な表明がなされていないのが現状です。Boot Camp自体は、ステップバイステップのウィザード式によるインターフェイスを提供する、シンプルな「Boot Campアシスタント」によって構成されており、現時点でローカライズにも対応しているとの事。一連の流れとしては、
といった手順によって、Intel MacへWindowsをインストールするための一連の作業の簡略化を実現しており、パーティション作成時にハードディスクの初期化を必要としないため、Mac OS Xの情報を失う事は無いとされています。また、Windowsをアンインストールする際には、Boot CampによるWindowsパーティションの消去もサポートされており、インストール完了後、コンピュータの再起動時に「option」キー(「Alt」キー)を押す事によって呼び出す事のできる「Startup Manager」によって、ブートOS(Mac OS X or Windows XP etc...)の選択が可能になるとの事。インストール後はWindows側のコントロールパネルにMac OS Xライクな「起動ディスク」項目が追加されるようです。起動後の両ボリュームの扱いに関しては、Mac OS XからWindowsボリュームへのアクセスは可能とされていますが(NTFSに対してはリードオンリー)、その逆は不可能となるようで、これは現行のファイルシステム上の制限がそのまま当てはまる形になるのでしょう。NTFSに対する書き込みの可否は、ドライバのアップデートにより修正可能かとも思われますが、セキュリティ面を始めとするシステム全体の安全性等を考慮すると、現状ではバランスの取れた措置といえるのかも知れません。尚、Macintoshが持ち得る機能の中でも「Apple Remote Control」「Appleワイヤレスキーボード、ワイヤレスマウス」「Apple USBモデム」「MacBook Proの緊急モーションセンサーセンサ、環境光センサ、内蔵iSightカメラ」や一部のPCIデバイス等は、利用不可能とされており、機種によってはAir Macアダプタも無線LANアダプタとして認識しないだろうといわれています(iMacでは認識可能との報告も挙がっているようですが……)。
これまでは一貫して、Intel MacにおけるWindowsのブートに関しては「積極的にサポートをする事も妨害する事もしない」といった姿勢を貫いていたAppleなだけに、自らデュアルブートの支援ツールをリリースした事に対しては様々な方面で大きな反響を呼ぶ事が予想されますが、或いはAppleサイドからすると、Intel プロセッサの採用を決定した当初からの(ある程度)予定通りのロードマップだったのかも知れません。この時期におけるパブリックベータ版のリリースは、Windows Vistaの発売延期を受けて行った、市場への一つのアドバンテージの提示と捉える事もできるでしょうし、Windowsユーザに対するハードウェアの選択肢としてのMacintoshを定着させるには、この時期がベストと判断したのかも知れません。そういった意味では既存のPCメーカにとっては、Appleの存在を市場における新たな脅威として認識せざるを得ない状況になったといえるでしょう。
そして今回の発表により、多少なりとも「Windows XP Service Pack 2」の販売本数が伸びる事が予想されますし、Microsoft自体も今回のBoot Campのリリースには歓迎の意を示しているようですが、デュアルブートが実現した後に、どちらのOSがメインで使われていくのかは、まさに両OSの性能次第。完全に同じ土俵に立つ事によって、様々な比較がより顕著な形で表面化されてくるでしょうし、まさにガチンコ勝負の様相も呈してくるでしょう(意図的にWindowsのみのパフォーマンスを落とす事も可能でしょうが、現状ではWindows XPの方が優勢であるといったレビューもあるようです)。しかしながら、ソフトウェアメーカを始めとする一部のデベロッパの中には、自らのアプリケーションのMac OS X対応(移植)に難色を見せる向きもあるといわれており、未確定情報ながらAdobeにその意思がありそうだ、などという、まことしやかな噂が挙がっていたりするのは気掛かりなところ。Macintoshハードウェアにとっては歓迎すべきBoot Campの存在も、ひとたびMac OS X側に視点を変えれば、諸刃の剣と成り得る恐れもあるのでしょう。尚、 Windows XPを動作させる場合には、ウィルスを始めとする一連のセキュリティ対策においても、最新セキュリティパッチの適用、ウイルス、スパイウェア対策、或いはファイアウォール等といった、現行のWindowsと同様の手法と認識が必要となってくるので、生粋のMacユーザにおいては注意が必要となってきます。
そして「Boot Camp」の興奮も覚めやらぬ中、ほぼ同じタイミングで米Parallels Software Internationalより、Mac OS Xベースのデスクトップ仮想化ソフトウェア「Parallels Workstation 2.1 for Mac OS」のベータ版がリリースされるに至っています。
「Boot Camp」がMac OS XとWindows XPのデュアルブート環境を構築するための支援ツールであるのに対して、「Parallels Workstation 2.1 for Mac OS」はホストOS(この場合はMac OS X)上に種々の仮想マシン(ゲストOS)を稼動させるための仮想化ソフトウェアとしての位置付けとなり、「Microsoft Virtual PC」や「VMware Workstation」等のMac OS X版と考えれば良いかと思います。今回のリリースはWindows版、Linux版に続くのもので、2週間のトライアルが可能との事(トライアル版では USBデバイス、サウンド機能、フルスクリーン表示等に制限有)。プロセッサにIntelの仮想化技術である「VT-x(Vanderpool Technology)」がサポートされている場合には、同機能のフル活用が可能とされており、現状リリースされているApple製「Intel Core Duo」搭載機種の中では「Mac Book Pro」と「iMac」がこれに該当します。尚、NT、2000を含む各Windows系OSや、OS/2、Solaris等については対応するツールも用意されており、9日にリリースされたBeta 2では、ネットワーク関連のドライバに起因するカーネルパニックや、無線LANのネットワーキングパフォーマンス、或いはディスクイメージではない実際のCDの動作に関する問題(起動前にCDをドライブにセットしておかないと認識されなかった問題)や、「Fedora 5」インストール時の不具合等も改善されており、速度や安定性面でもパフォーマンスを上げているようです。各OSは単独起動ではないだけに、要求されるハードウェアスペックも高くなり、デュアルブート環境と比べた場合に処理能力等は見劣りする面もあるかと思われますが、既存のCPUエミュレータよりは格段に実用的な動作が期待できるでしょう。こちらのリンクではデモムービーも公開されており、Internet ExplorerやFirefox等、ブラウジングメインの内容ですが、なかなか軽快に動いているようです。
その他、Mac OS X環境における仮想化技術(Virtulization Technology)の動向としては、先月末あたりに、あくまでも非公式な内容ではありますが、「Mac OS X 10.5 Leopard」における新機能の一つとして、一種のサーバ仮想化ソリューション(Virtulization Technology)である「Chameleon(コードネーム)」が搭載されるであろうといった事も伝えられています。これはIntelベースのMacintoshにおいて動作可能とされており、サーバ版、クライアント版の何れにも提供されるであろうとの事。そのイメージはCPUエミュレーションを必要としない側面からも、前述のParallels Workstation 2.1 for Mac OS同様、「VMware」やオープンソースの「Xen Project」、或いはWindows版「VirtualPC」や「Virtual Server」にも近いものがあると思われ、一方で、それらの技術をOSの一部として提供するといった形態は「Windows Vista Enterprise Edition」にて搭載予定とされている「Virtual PC Express」と競合するのではないかとの予測も立ちます。いずれにせよ、Intel Macをホストとして、その上で「Mac OS X」「Windows」「Linux」等の各仮想マシン(ゲストPC)を作成、管理、動作させる事を可能とする技術で、前述のようにネイティブCPU上での動作を前提としているため、動作速度を始めとする一連の実用性にも期待が持てるでしょう。尚、サーバ用途にて提供されようとしている製品は、既存の「Apple Remote Desktop」のように、サーバ上で仮想的に動作しているゲストOSに対するリモート接続環境の提供を試みようとするもので、主にエンタープライズ用途のユーザがターゲットとされるであろうと予測されています。
この製品に関しては、あくまでも憶測の域を超える事はできませんが、Mac OS X環境への移植が囁かれているVMwareを含め、これらの技術がクオリティの高い機能として提供された場合、既存のMacユーザに大きなメリットをもたらすと共に、Boot Camp同様、新たなシェア獲得にも多大な貢献を果たしてくれるであろうといった事も期待できます。「Boot Camp」によって実現したMac OS XとWindowsのデュアルブート環境と比較した場合においても
等といった、既存の仮想マシンソリューションやPCエミュレータが持ち得る様々なメリットが、より実用的な実行環境にて提供されると考えれば、 Mac OS Xをメインとしているユーザが、サポート外でもあるWindowsとのデュアルブートを導入しようとする必要性も薄れる事でしょう。Appleが Intel MacにおけるWindowsの動作に関して、それを阻止するような方針をとらなかったのは、こうした新機能の搭載を見越した上での行動だったのではないか、といった事も考えられてきます。また一方では、一部のMac OS Xユーザが密かに期待しているIntel版「VirtualPC for Mac」が現実のものとなる可能性は薄くなり、開発中止に繋がって行くといった事も取り沙汰されてくるでしょう。首の皮一枚繋がっている「Office for Mac」と共に、近い将来におけるMicrosoft製アプリケーションの全廃にも繋がっていくような気もしますが、今回の開発にはIntelと共に Microsoftも一枚絡んでいるといった事も報じられており、あらゆる局面における様々な影響を考慮した上での想定内のロードマップであるとするならば、大きな発展に繋がるキーソリューションとしても大いに期待したいところです。尚、先月末には、PC性能を比較するベンチマークソフトウェアを開発している業界団体「Bapco」にAppleが加入したといった事も報じられており、その真意は定かではないもの、一連のマルチプラットフォーム化を強く意識している側面等も窺い知れています。
このようにMac OS X環境のみならず、最近様々な面で注目を集めており、非公式な情報も沢山流れている仮想化技術に関しては、前述のVirtual PC Expressや、先日無償化された「Virtual Server 2005 R2」、「VMware Player」の無償提供をはじめ、同社自らMac OS X版の開発を認めたとされている前述のVMwareや、オープンソースのXen Project、或いはLonghorn Server(コードネーム、Windows Vistaのサーバ版)用に開発中でVirtual Serverの後継と目されている「Viridian」(コードネーム、OSの機能の一部として提供予定)等、サーバ関連を始めとするエンタープライズ市場を中心に、徐々に幅広いユーザ層への提供も実現されそうな方向性を見せています。更にMicrosoftにおいては、当初「Longhorn Server(コードネーム)」の最上位版にあたる「Datacenter Edition」にて実現予定とされていたWindowsインスタンス(ゲストOS)のライセンス制限の撤廃を、現行の「Windows Server 2003 Enterprise Edition」において実現させようとする構想や、前述のViridianのリリース時期の前倒し等も視野に入れて検討されているとの事。特にコンピュータリソースの進歩が著しい現在においては、数年前の資産が最新システム上では稼動不可能となってしまうといった事が頻繁に起こり得るのも事実であり、x86プロセッサの進化や普及の過程で、その設計や利用が容易になったといわれる中、前述ような問題に対するソリューションの一つとしても、仮想化技術の市場が活発化し、より良い製品が低コストにて入手可能な状況が生まれようとしている事は、非常に歓迎すべき事ではないかと思われます。
尚、個人的にはデュアルブートよりも仮想化技術の方に大きな魅力を感じており、先程箇条書きにて著した以外にも、現状でWindows XPからMac OS Xボリュームに対してアクセス不可能となっている(Mac OS X側からもNTFSに対しては読込みのみのサポート)等、互換性面における課題が残るBoot Campと比較した場合にも、実用面では大きなアドバンテージを感じます。現状では既存のMac OS Xユーザがセカンドマシン的にWindows環境を欲するのであれば、仮想化技術の方がより効率的な作業環境の構築を実現してくれるでしょうし、トータルで考えるとデュアルブートにはないメリットを多く見出す事ができます。そもそもデュアルブートと仮想化技術では、持ち得るメリットもデメリットも被らない「似て非なるもの」との認識をもっていますので、こちらはLinuxディストリビューションも含めたトータルでのクロスプラットフォーム実現のための技術として期待し続けていたいところですし、 Mac OS Xをメインとしているユーザにおいては、デュアルブートより、仮想化を望む声の方が多いのではないかと思われます。
このような背景からも、今後Mac OS Xに純正の仮想化技術がサポートされた場合には、Boot Campを必要とするユーザはかなり限定されてくるような気がします。何よりハードメーカ(Apple)がサポート外を打ち出してしまっているのが大きなネックとなるのではないでしょうか。
いずれせよLeopardに関する何らかのアナウンスがされるであろう「WWDC2006」が非常に楽しみですね。
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