最終更新時刻:2008年9月5日(金) 17時07分

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ITプロレタリアートは多機能工化で生まれ変わる

公開日時:
2008/06/09 08:42
著者:
吉澤準特

前のエントリーでは、IPAX2008でのやりとりを紹介し、IT業界の重鎮と学生との間に埋めがたい溝があること、このままではITエンジニアの多くは夢を持ってIT業界を生き抜くことは難しいであろうことをお伝えしました。

これについて、「ITソルジャーの多機能工化」というキーワードを出して前回のエントリーを終えたのですが、その後、色々なところで本件を話題にして頂けたようです。

皆さんの中にもいくつかの解を持っている方がいらっしゃると思いますが、今回は私なりの答えを提示したいと思います。

 

最初に確認しますが、現在のIT業界は世間を見渡しても屈指の労働環境の悪さに陥っています。誤解を恐れずに言えば、戦前のプロレタリアート(無産階級)が置かれていた立場に貶められている人間が少なくありません。資本主義体制化での貧困階級をも意味するこの言葉を使い、ITソルジャーを「ITプロレタリアート」という表現に置き換えます。

ITプロレタリアートは自らの生産的な手段を持たず、資本家である元請ベンダーから仕事を貰ってそれをこなすだけの存在です。新しい取り組みに着手したくともそんな余裕はまったくなく、目の前の受託開発で手一杯というベンダー、エンジニア、プログラマの方はほぼ全てがITプロレタリアートだと言えるでしょう。

ITプロレタリアートは劣悪な職務環境を余儀なくされています。定時で帰ることなど夢のまた夢、終電も日常茶飯事でタクシーになることも珍しくない、そのくせタクシー代は自腹になることもある。これだけならまだしも、裁量労働と称して残業代が一切でない、もしくは残業代が支給されてもそれは一部分だけでサービス残業が多くを占めるというなら、これはもう現代の蟹工船です。

※蟹工船のあらすじは本題と逸れるので以下リンクを参照下さい。
http://it-ura.seesaa.net/article/99881785.html

 

蟹工船では、搾取される側の労働者は蜂起の末に経営者とグルになった軍に鎮圧されてしまいますが、現在でも、ベンダーの中には「イヤならやめろ」という態度のところがいくつもあります。

幸いにしてプライム・中堅ベンダーのいくつかは環境が改善しているため、そういったところに就職・転職するという手は、状況改善に即効性があります。

しかし、それはモチベーション(ヤル気)溢れるITプロレタリアートだけに当てはまる方法であり、実は世の中の半数以上を占めているであろう「リアクティブ(受身)なITプロレタリアート」は、相変わらずIT業界に対する夢や希望を持てないだろうと考えます。

そこで出てくるのが「ITプロレタリアートの多機能工化」です。

 

多機能工化とは、製造業で生まれた考え方です。

かつて製造業では、効率化を追求した分業体制(カンバン方式)がベストソリューションであると信じられていた時期がありました。

しかし、ベルトコンベアーに製品を流して上流から下流までの流れを分業した結果、一人一人の作業者が扱う範囲が狭まり、それが作業者の仕事に対する意欲を奪ってしまったのです。生産性は高まるどころか逆に低下し、製造過程の不良発生率が増してしまいました。

これを解決するために一部の工場で実践されたのが、セル生産方式と呼ばれるアプローチです。

従来、作業工程の1から10までを1人1つずつ担当していたものを、全て1人が担当する方法に切り替え、1人が作業全体を見渡せるように変えました。

サンドイッチ作りに例えるなら、今まで具材のトマトを切る工程しか経験していなかった人にパンを切るところから皿への盛り付けまで全て経験させたようなものです。全体を知れば作業者の視野は広がります。これまでは適当にトマトを切るに留まっていたところを、最後の盛り付けが美しくなるような切り方はできないものか創意工夫をするようになることでしょう。

 

さて、話をIT業界に戻しましょう。

システム開発ではウォーターフォール型の開発アプローチが一般化していますが、この方式は進捗を管理し易い反面、設計・コーディング・テストという段階で作業を区切るため、どうしてもその単位でチームを構成する傾向が強くなり、結果として作業者の扱う範囲は狭まります。

さっきの話、そのままシステムインテグレーションに当てはまると思いませんか?

お気付きの方もいると思いますが、先の製造業におけるカンバン方式はウォーターフォール型の開発手法に該当しています。ということは、システム開発にもセル生産方式のアプローチがあるはずだという想像は容易にできますよね。

その通り、概念的にはかなり近いものがあります。これは「アジャイル手法」という名前で知られていますね。

アジャイル手法とは、作業フェーズで役割を区切るのではなく、作っているシステム機能ごとに役割を区切る方法です。先のサンドイッチ作りの例に当てはめるなら、

・ウォーターフォール手法
 Aさん:パンを切る
 Bさん:トマトを切る/タマゴを切る/ツナを切る
 Cさん:挟んで皿に盛る

・アジャイル手法
 Aさん:トマトサンドを作って皿に盛る
 Bさん:タマゴサンドを作って皿に盛る
 Cさん:ツナサンドを作って皿に盛る

というところでしょうか。作業で区切るよりも機能(サンドイッチの種類)で分担した方が、各人の視野が広がるのです。

 

システムインテグレーションの世界に積極性を持つ人材を招き入れたいのなら、アジャイル手法の活用によって作業者の視野を広めることで創意工夫の余地を作る必要があると私は考えます。属人性を懸念するのであれば、ピアレビューやエクストリームプログラミングで複数人が情報を共有すれば良いでしょう。

属人性の排除を謳っている人々は、それが作業者の個性を完全に殺すことを要求しており、有能な個性ある人材の流出につながっているという事実を認識すべきです。

属人性を必要以上に排除してはいけません。「その人だからできる」という事実は個人のモチベーションを高めます。逆に言えば、属人性を排除していくことで、あなたの組織にはITプロレタリアートが溢れていくことでしょう。

それだけは忘れないで下さい。

 

吉澤準特より:

昨年秋にIPA(情報処理機構)が主催した学生との交流会にて、IT業界の重鎮達がIT業界を幻滅させるような発言をしてしまったことは記憶に新しいですが、5月28日にIPAが開催した「IPAX2008」で、またしても重鎮からのトンデモ発言が飛び出たようです。

西垣氏(IPA理事長)曰く、

「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」<[続きを読む]

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

2

kendjiさん、コメントありがとうございます。

今の若い人は周囲からせかされているというご指摘、私もそうだと思います。これはIT業界を取り巻くスピードが10年以上前よりも明らかにスピードを増してきていることも一因ではないかと考えています。これはインターネットの普及だけでなく、ITが複雑化してきていることも原因でしょう。

そうなると、一人の人が全ての機能を設計・開発することは物理的に不可能になり、全体像を掴む作業をなかなか経験することができません。ここにモチベーション低下が発生するのではないかと思います。

週休0日で働くということも、実は少なくない若手がそのような境遇に置かれているので、この点に昔と今の差はあまりないのかもしれません。

  吉澤準特 on 2008/06/17

1

要求のうまい人はそういません。IPA理事長も、そうすればこうなれるというビジョンを提示できないことだけが問題なわけです。
ボクはITで二十年食っていることになりますが、今は一日6時間くらい働いてる状況です。もちろん忙しいときは終電前で帰宅ということもありますが、自由にやらせてもらっています。
働き始めたときは週休0日もザラでしたが、文句も言わず働きました。一人前でないことを自覚していましたから。今ではUIの設計とそれに関するグラフィック作業、音付け、HTTPSを利用するソケットプログラミング、プロセス内・プロセス間排他・同期処理など、およそ現状必要とされる技術は全て身につけています。会社を設立し、平均よりは豊かで時間も自由な生活を送れていると思います。
今の若い人は力も無いのにそれを身にしみて感じさせられる前に権利を履行するよう周りにせかされていて、ちっとも成長できなさそうで、同情はしませんが、かわいそうには思います。

  kendji on 2008/06/09

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