昨年秋にIPA(情報処理機構)が主催した学生との交流会にて、IT業界の重鎮達がIT業界を幻滅させるような発言をしてしまったことは記憶に新しいですが、5月28日にIPAが開催した「IPAX2008」で、またしても重鎮からのトンデモ発言が飛び出たようです。
西垣氏(IPA理事長)曰く、
「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」
という伊藤忠商事の取締役会長の言葉を引用して、仕事をコツコツ続けていれば見えてくることを訴えたとのこと。
この発言、すでにIT業界の内側で活躍されている方々からすれば、ヘソで茶を沸かすくらい馬鹿げた物言いだと感じたハズです。
本来なら笑い飛ばすべきこの発言には、実際のIT業界における人々の縮図を言い表しているようにも思えませんか?
「泥のように働いてもらい・・・」という表現は、目の前の仕事をただひたすらに取り組んでいくことを意味していることは分かると思います。
そしてこの場にいた学生全員がこの言葉に賛同しなかったことがWebメディアのいくつかで告げられていました。
しかし、与えられたことを黙々と片付けていく仕事のスタイルにどっぷり浸かっているプログラマやエンジニアは意外なほど多いのではないかと私は考えています。
というのも、昨年のIPAでのやり取りを踏まえ、周囲のITに関わる人々に何十人も直接問いかけた結果、システム開発・運用の現場では、8割以上の人間がルーチンワークを積極的に好むことが分かったからです。
(実は変化など望んでいないエンジニア達?:2007/11/19)
→ http://it-ura.seesaa.net/article/67430241.html
「そもそも欧米と比較して日本のIT業界は低レベルの人材がかなり集まっていることを忘れちゃダメだ。」
これは欧米との比較だけでなく、国内の他業界との比較においても外れていない言葉であると認識しています。
だからこそとでも言いますか、IT業界の進化は工業化という形で進行し、「サルでもできる単純業務」と「責任重圧で死にそうな複雑業務」への両極化が進んでいるわけです。
これを与えられた環境として甘受している人もいれば、それに対して必死にもがこうとする人もいます。
前者はIT業界に残り続け、後者の多くは志半ばにしてIT業界を去る。
そのような構図の中で生き抜いてきたIT業界の重鎮にとって、期間の過多はありますが、長期間ひたすら修行を続けるという発想になるのでしょう。
もちろん私はこの発想に到底同意できません。
まず、ドッグイヤーからマウスイヤーと呼ばれるまで変化の激しいこの世界で10年間も光を浴びずにひたすら努力を続けるという愚かな発想を強いることは、若くして活躍の場が広がるIT業界の楽しみを摘み取ってしまうことでしょう。
「搾取」と表現する方が適切かもしれません。
この業界に入ってくる新人達は、果たした功績に対してごく一部しか報酬を与えるだけで馬車馬のように働く、なんとも都合の良い奴隷である、そうIT業界の重鎮は考えているのだ。
こう曲解されても仕方のない言い方を重鎮たちはしています。
事実、冒頭のIPA理事長の西垣氏は、
『数として欲しいのは,金融システムなど企業の大型システムに従事する人間。こういった領域では,個人の能力よりは業務ノウハウが重要。プログラマとして優秀であっても,業務を理解しないと,よいシステムができない。技術だけを評価して処遇することは企業としては難しい。天才プログラマのように技術を極めるのであればそれを生かす道に行くべきであって,企業に入って大型システムを開発するのはもったいないか,向いてない』
(ITpro:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080530/305172/)
と述べているとのこと。
システムインテグレートの世界では、構築対象が肥大化・複雑化し続けた結果、もはや産業化による元請け/下請けモデルによってモジュール開発化しなければどうにもならない状況になってしまったのだと私は理解しています。
経営層の方とITコストの削減について話すとき、IT要員はそれぞれがコマに過ぎず、いかにして全体の人件費を削減するのか、それだけに意識が向きがちということがかなり多い。
このまま進めば、ITベンダーの多くは工場となんら変わらぬ存在となり、当然IT業界で働く人々の多くも、工場労働者と同じ扱いとなるでしょう。
※既にこの状況に陥っている方も多そうです。
そんな業界に学生が希望を持つはずがありません。夢少ない世界で夢を語れというのは難しい話です。
しかし、実はこの苦労を製造業界は既に経験しています。そして、この夢少なき世界にあって、個々人のモチベーションを高める方法もいくつか考案され、実際に使われています。
キーワードは「ITソルジャーの多機能工化」です。
この話は次に続けます。
※CNETブロガーのjunagashimaさんも既に触れていらっしゃるので、そちらもどうぞ。
http://japan.cnet.com/blog/0026/2008/06/02/entry_27002082/
------------------------------------------
【IT業界の裏話】
→ http://www.mag2.com/m/0000138683.html
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
ITプロレタリアートは多機能工化で生まれ変わる
きむこう on 2008/06/17
きむこうさん、コメントありがとうございます。
旧来型のSIに懲りている新興ベンダーやNECなど、営業部隊とSI部隊の垣根を取っ払って、むちゃくちゃな案件を取ってこないようにする仕組みを導入している会社は増えています。案件獲得からソリューションの実現まで責任を負う体制が広く一般的になれば、無茶な話は大分減ってくると思います。
「効率を3倍にすれば残業しなくていいはず」というのはスゴイ発想ですね。そういうことを言う方はきっと、睡眠効率を3倍にして1日2時間睡眠でも生活できるのでしょうね。
吉澤準特 on 2008/06/17
朝之丞さん、コメントありがとうございます。
重鎮の方々はなぜ若手の意識を逆なでするようなことばかり言うのか不思議でなりません。「頑張れ、努力しろ」と言うばかりで具体的・定量的・定性的な目標をまったく示さない上司は、一般的に部下からの信頼を損なうだけだと思っています。江戸時代の価値観が明治時代で通用しなくなったように、昭和の価値観も平成ではそのまま通じないことを意識すべきなのでしょうね。
吉澤準特 on 2008/06/17
吉澤準特 on 2008/06/17
kendjiさん、コメントありがとうございます。
今の若い人は周囲からせかされているというご指摘、私もそうだと思います。これはIT業界を取り巻くスピードが10年以上前よりも明らかにスピードを増してきていることも一因ではないかと考えています。これはインターネットの普及だけでなく、ITが複雑化してきていることも原因でしょう。
そうなると、一人の人が全ての機能を設計・開発することは物理的に不可能になり、全体像を掴む作業をなかなか経験することができません。ここにモチベーション低下が発生するのではないかと思います。
週休0日で働くということも、実は少なくない若手がそのような境遇に置かれているので、この点に昔と今の差はあまりないのかもしれません。
吉澤準特 on 2008/06/17
正直無理なんじゃないでしょうか?
指示出す方は
「XX作って。いついつまでに。(客と約束してきたから)」
自分が作業するのでなければ、幾らでも無茶言えますし、文句も言えますから。
裁量労働制を
「何時間残業させても休出させてもお金が払わなくていい制度」
と勘違いしている経営者も多いですしね
(残業休出するのは自己責任。
「効率を3倍にすれば残業しなくていいはず」とのこと)
米のようにちゃんとした見積もり作っても
「ムリを通せば道理が引っ込む」で政治的判断で
無かったことにされる時点で、日本でのこの産業制度、運用自体が
まだまだ未熟なんだと思います(人を使い捨てる前提)
きむこう on 2008/06/15
吉澤さん、こんばんは。
>またしても重鎮からのトンデモ発言が飛び出たようです。
まだこんな事を言っている輩(やから)が居るとは。
吉澤さんの様なCoolな表現は出来ませんが、私が現場でよく言っているのは、こういう人たちは「昭和の大将ここにあり、立志伝中の人物、よっしゃ、よっしゃ」こういうお歴々がご勇退あそばせれば、もう少し良くなってくるのではないかと、日々考えております。
もう21世紀なんですが...
朝之丞 on 2008/06/14
要求のうまい人はそういません。IPA理事長も、そうすればこうなれるというビジョンを提示できないことだけが問題なわけです。
ボクはITで二十年食っていることになりますが、今は一日6時間くらい働いてる状況です。もちろん忙しいときは終電前で帰宅ということもありますが、自由にやらせてもらっています。
働き始めたときは週休0日もザラでしたが、文句も言わず働きました。一人前でないことを自覚していましたから。今ではUIの設計とそれに関するグラフィック作業、音付け、HTTPSを利用するソケットプログラミング、プロセス内・プロセス間排他・同期処理など、およそ現状必要とされる技術は全て身につけています。会社を設立し、平均よりは豊かで時間も自由な生活を送れていると思います。
今の若い人は力も無いのにそれを身にしみて感じさせられる前に権利を履行するよう周りにせかされていて、ちっとも成長できなさそうで、同情はしませんが、かわいそうには思います。
kendji on 2008/06/09
吉澤準特 on 2008/06/02
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吉澤さんコメントありがとう御座います。
人に振るのは楽ですから。振り得という事なんじゃないでしょうか。
あと今の現場の場合、営業がとても弱いので
仕事を選べない状況にあるのだと思います。
<仕事が選べれば、確かに無茶な仕事しなくてすみますよね