養豚+テクノロジーで食肉文化の持続を--Eco-Pork創業者インタビュー

 世界人口の増加、気候変動、環境に対する人々の意識変化などにより、食肉産業は大きな曲がり角を迎えている。近い将来、畜産由来のたんぱく質は極めて貴重なものとなり、もしかすると一般の消費者には手に届かないものになる可能性もある。そこに対し、テクノロジーを用いて真っ向から挑んでいるのが、2017年に創業したスタートアップ企業のEco-Porkだ。

 将来も長く豚肉を食べられるようにしたいという想いから、豚と人と地球に優しい畜産を目指している同社。独自のAI技術やIoTなどを組み合わせたソリューションを開発し、数十万円の導入コストで8000万円近い売上アップを実証するなど、その有効性をすでに示している。2023年1月に繁殖における管理を支援する仕組みとして、アニマルウェルフェアにも配慮した「フリーストール飼いの環境下における、『発情検知』『個体体識別』を可能とするAI技術」を発表し、さらなる畜産の生産性向上を図ろうとしているところだ。同社のソリューションによって養豚はどう変わっていくのか、Eco-Pork 創業者兼代表取締役の神林隆氏らに話を聞いた。

Eco-Pork 創業者兼代表取締役の神林隆氏
Eco-Pork 創業者兼代表取締役の神林隆氏

たんぱく質危機を乗り越え、将来に渡って豚肉を食べられるように

―Eco-Porkについて、創業のきっかけなどについて教えていただけますか。

神林氏 Eco-Porkは、簡単に言いますと、データやICT、AI、IoTを使って、みんなが豚肉を食べていける未来を守っていこう、というのを目指している会社です。

 僕は大学時代にAIの研究をしていて、その後MBAを取得して外資系コンサルティングファームで働いていたのですが、7~8年前に再びAIの時代が来るということで、人はどうやって働くと幸せを感じられるのか、どうやれば生産性が高まるのか、という課題をAIを使って解決しようとしていました。しかし、当時は「どうやったら退職しないか」「いくらまで残業代を減らしても辞めないか」といった研究になっていたのです。

 自分としては、AIを使っていかにいい人材を育てるかを研究したかったですし、技術というのは人を幸せにするために使うべきだと思っていたので、社畜をつくるくらいなら家畜のための技術をつくろうと(笑)。それで、農業や畜産に関わったことは一切なかったのですが、人に使っていた技術を畜産に使っていこうと思い、豚肉の世界に飛び込むことにしました。

―牛や鶏ではなく、なぜ豚を選んだのでしょう。

神林氏 まず豚肉市場は、生産者が出荷して食肉になるまでの領域だけでも、世界で40兆円、国内で6000億円という非常に大きな産業であること。でも一番の理由は、豚肉の市場が僕らのテクノロジーをもっとも有効活用できる領域だと思ったからです。

 たとえば牛は個体管理です。和牛は1頭あたり数十万円以上から取引されるので、1つの農場で10頭ほど飼っていればいい。それくらいなら1人で管理できます。でも豚は数が多く、1人で100~1000頭という規模で見ることになるので、それを全部健やかに育てようと思っても人間の手には負えません。ここにテクノロジーを使う意義は大いにあります。

 また、牛については2000年代前半に遺伝病である狂牛病が流行し、全世界でトレーサビリティが必須となったことから、世界的にIT企業が参入して個体管理の仕組みがすでに完成しています。ところが豚の世界は最近でこそ豚熱などが話題になっているものの、それまでは疾病が少なかったこともあり、誰もIT化には目を向けてきませんでした。

 そして、食肉産業にはいくつか大きな課題もあります。1つは、2030年にはたんぱく質危機が訪れると言われていること。すでに2021年には食肉が不足するミートショックも発生していますし、このままではみんなが肉を食べられなくなって、人類が築いてきたおいしい食肉文化がなくなってしまう。それをなんとかしたかった。

 さらに、畜産による食肉の生産は環境負荷が高いと言われていることから、今後は大豆など植物由来の代替肉や、培養肉へと置き換わっていく可能性があります。そこで畜産を諦めるのではなく、自分たちの子供の世代にも胸を張って食肉文化を伝えていけるようにしたかった。豚ができるだけ健やかに育ち、地球の負荷を下げ、人々も幸せになる、「for Planet, for People, for Pig」の世界を創っていければ、という想いをもっています。

養豚経営管理ツール「Porker」の体重測定イメージ
養豚経営管理ツール「Porker」の体重測定イメージ

―豚肉市場におけるテクノロジーの活用にはどのようなチャンスがあるのでしょうか。

神林氏 豚肉市場は40兆円という規模のわりに、現場ではデータを活用した生産プラットフォームが意外とない、というのが世界的な実情です。野菜だと植物工場がありますし、魚においても洋上でのスマート養殖や陸上養殖など進んだ取り組みがすでに始まっています。ところが畜産、養豚にはそういったテクノロジーを活用したプラットフォームがありません。そこでわれわれはICTやAI、IoTなどを活用して、豚が健やかに育ち、地球にも優しい最適な環境を整える養豚のプラットフォーム、自働化パッケージを提供していこうとしています。

40兆円産業であるにも関わらず、養豚の現場のIT化は進んでいないという
40兆円産業であるにも関わらず、養豚の現場のIT化は進んでいないという

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