デジタルでも“ぬくもり”のあるコミュニケーションを-- LINEとスタバが提携した理由

 既報の通りLINEとスターバックスコーヒージャパンは4月8日、2018年に締結したデジタル領域における包括的業務提携の内容として、決済機能を持つ「LINEスターバックスカード」などの施策を発表した。発表会の席で両社は、「デジタルなサービスにもぬくもりを」という思いが一致したと語るが、どのような形でデジタルなサービスにぬくもりを持たせようと考えているのか。両代表の発言から探る。

店頭で「LINEスターバックスカード」を使って飲食代を支払うところ
店頭で「LINEスターバックスカード」を使って飲食代を支払うところ

23年間守り続ける「Starbucks Experience」

 スターバックスコーヒージャパン代表取締役CEOの水口貴文氏は、1996年に日本1号店を出店して以来23年間変わらずに、同社のミッション、存在意義として「お客さまとのつながりを持ちながら、人々を心豊かに、そして活力を持ってもらう」という言葉を挙げた。スターバックス コーヒー ジャパンは2018年末の時点で日本全国に1415店舗を構え、1日当たりおよそ80万人の来店客を迎えているという。

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スターバックスコーヒージャパン代表取締役CEOの水口貴文氏

 水口氏は、「一人一人のお客さまそれぞれがちょっと『ほっ』として、ちょっと楽しくなって、ちょっと元気になってお店を出ていただくこと。これを23年間、毎日やってきたこと。これがわれわれのすべての経営のベースだと思っている」とミッションに忠実に守ってきたと語る。

 そして、そのミッションを支えているのは同社が「Starbucks Experience(スターバックス体験)」と呼ぶもので、来店客が体験することすべての価値を指し、同社はこれを高めることに集中してきたという。

 当初、Starbucks Experienceは商品、パートナー(従業員)、店舗の3つを磨き上げることで、価値を高めていた。しかし、5年ほど前から「デジタル」という新しい要素が加わるようになった。「今では、お客さまはデジタルの体験も楽しむ時代に入っている。デジタルはなくてはならない要素になった」と水口氏は語る。

デジタル時代ならではの「ぬくもり」とは

 そして水口氏は、「デジタルの世界でスターバックスがどのような世界を、どのようなお客さまとのつながりを作っていけるかというのが大きな課題」とし、その中で大切にしてきたこととして「スターバックスならではの『ぬくもりのあるデジタル体験』を常に考える」ことを挙げた。

 例えば同社が2018年末に開始した宅配サービス「Starbucks Delivery」では、注文客に届けた商品にパートナーが書いた「ぜひまたご来店ください」というメッセーカードが同梱されていたという。2014年に開始した「Starbucks eGift」でも、ギフトの中に贈り主が書いたメッセージカードを入れることができる。どちらもデジタルで利用できるサービスだが、どこかに相手のことを思う心、“ぬくもり”を感じさせる部分を持たせているわけだ。

 さらに水口CEOは、2017年9月に開始したポイントプログラム「Starbucks Rewards」も例として挙げた。このプログラムに参加すると、買物のたびに、額に応じた「Star」というポイントを獲得できる。Starは日常の買物で金銭の代わりに使うこともできるが、貯めると限定商品との交換や、限定イベントへの参加などが可能なほか、Starを東日本大震災で両親を亡くした子供たちの教育資金として募金することもできるという。現在、Starbucks Rewardsの会員数は330万人まで増加している。

デジタルなコミュニケーションにも「ぬくもり」を持たせるLINE

 水口氏に続いて登場した、LINE代表取締役社長CEOの出澤剛氏は、同社のミッションが「Closing the Distance」であることを紹介し、サービスに込めた思いを「単純にデジタルの世界で世の中のあらゆる人と知り合うということではなく、本当に大切な昔からの友達であったり、家族であったり、本当に親しい人々との絆をもっと深くする、もっと仲良くしたい」と表現。今では、約7900万人の月間利用者数を誇るサービスに成長した。

LINE 代表取締役社長 CEO 出澤剛氏
LINE 代表取締役社長 CEO 出澤剛氏

 そして、LINEの開発で特に気をつけたのが「ぬくもり」だとする。「デジタルと言うと、機械的な、クールな印象を抱く人が多いと思う。それをできるだけ、人と人の本来的なコミュニケーションのように、ぬくもりのあるものにしていきたいという思いがあった」と語る。LINEで有名なスタンプ機能も、「スタンプを1つ贈るだけでちょっと感動が伝わる」とし、LINEの爆発的普及のきっかけとなったと出澤氏は振り返った。

 両社はすでに、ギフトサービス「LINE Gift」でスターバックスのドリンクチケットを送り合う機能で協業している。提供開始からすでに4年ほど経っている機能だが、「ちょっと仕事で疲れたときに、LINE上で『ありがとう』のメッセージに添えて、500円のチケットを送れる」と、人間らしい、ぬくもりのあるデジタルコミュニケーションを可能にし、ユーザーからも好評を得ているとアピールした。

 こうした、両社のデジタルコミュニケーションに対する考えが一致し、1年の協議期間を経て提携に至った。水口氏も「『つながりを大切にする』という企業としての価値観が合致した」と、LINEとの協業に対してコメントしている。

 今回の業務提携では、LINEアプリで使える「LINEスターバックスカード」、スターバックス コーヒー ジャパンの公式LINEアカウント、店舗でLINE Payを使用した決済の3つを実現する。公式LINEアカウントでは現在、すべてのユーザーに同じ内容を提供しているが、将来はLINEスターバックスカードでの購買履歴をAIで分析し、利用客一人一人に合わせたメッセージを提供していくという。

第二創業期を迎えたLINE。“自身”を超える2つのキーワード

 出澤氏はLINEについて「第二創業期を迎えた」とし、LINEを超える大きなサービスを作ると語る。そこで重要になるキーワードとして、同氏はFinTechとAIの2つを挙げた。

 FinTechでは、「決済という行為もコミュニケーション」と考え、「規制が厳しく、技術的にも追いつけなかった分野であり、まだまだ消費者が不便を強いられている領域だと思っている」と、出澤氏はFintTechの可能性に期待を寄せる。AIについても、「恐らく数年後には皆さんはスマートフォンを使わなくなる。あるいは使用頻度が極端に減る」と予測。それに取って代わるのが、AIによる音声認識を含めた音声コミュニケーションだという。

 同氏は、「5G、IoTの時代になれば、ありとあらゆるものがインターネットにつながっていく。しかし、すべてのIoT端末にボタンを付けるわけにはいかない。音声でコントロールするということが自然になっていく」と予測。コミュニケーションが音声、つまり言葉を使うようになることで、人間のぬくもりをデジタルでも感じられるだろうとする。

 今回の提携内容にも含まれたAIだが、果たして人間の心を理解し、「ぬくもり」を感じさせるメッセージを利用者に届けられるか、注目したい。

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