クルマを持てない20億人を救うモビリティFinTech--「GMS」中島社長の挑戦

 朝日インタラクティブが運営するITビジネスメディア「CNET Japan」は2月19〜20日の2日間にわたり、ビジネスカンファレンス「CNET Japan Live 2019 新規事業の創り方--テクノロジが生み出すイノベーションの力」を開催した。ここでは、20日に実施されたGlobal Mobility Service株式会社(GMS)代表取締役 社長執行役員/CEOの中島徳至氏による講演「クルマを持てない20億人を救うモビリティFinTech『GMS』の挑戦」の模様をお伝えする。

Global Mobility Service(GMS)代表取締役 社長執行役員/CEO中島徳至氏
Global Mobility Service株式会社(GMS)代表取締役 社長執行役員/CEOの中島徳至氏

低所得のタクシー運転者に“クルマが持てる”機会を

 中島氏は現在52歳。26歳の時に最初の会社を起業し、5年前に3社目となるGMSを起業した。グローバルの起業家支援コミュニティであるエンデバーから、日本で6人目の「エンデバーアントレプレナー」に選出されたほか、Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング2019」ではBEST10に選出、経済産業省の「SDGs/ESG投資研究会」の委員に未上場ベンチャーで唯一選出されるなど、起業家として高く評価されている。

 GMSは独自開発のIoT端末を活用し、フィリピン、カンボジア、インドネシア、日本でローン審査に通過できない低所得のタクシー運転者や個人向けに、ローンを組んで車両を購入できるFinTechサービスを提供している。今では東京、フィリピン、カンボジア、インドネシア、韓国に拠点を構えるグローバルカンパニーだ。

 設立時には、元東京大学総長の小宮山宏氏、ベネッセホールディングス最高顧問の福武總一郎氏などが株主として参加。デンソー、大日本印刷、凸版印刷、ソフトバンクなど、「モビリティ、IoT、Fintech領域の未上場ベンチャーでは最多の10社以上の東証一部上場企業に資本参加してもらっている」(中島氏)という。

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 GMSはものづくりの会社ではなく、IoTやFinTech技術に特化したベンチャーでもない。イノベーションによって社会問題を解決するというスタイルだ。掲げる理念は「『モビリティサービスの提供を通じ、多くの人を幸せにする』『真面目に働いている人が正しく評価される仕組みを創造する』ことで、誰もがモビリティを利用できる社会、社会がモビリティを利活用できる仕組みを作っていく」(中島氏)というもの。

 以前に起業した会社で、「街中は排ガス・騒音まみれ。もっとまともなクルマを走らせられないものか」との思いで日系企業として初となるフィリピンで電気自動車メーカー立ち上げ販売を画策したが、そこで「売ろうと思っても売れない。買おうと思っても買えないという切実な現状を知った」(中島氏)という。実際に買いたい人たちは数多くいたものの、貧困層の多いフィリピンにおいてローンが通らない人が大多数であったため売れなかった。そこで、開発途上国においてニーズとファイナンスが繋がっていかないという課題があることに気づき、GMSを起業して現在の社会問題解決のビジネスを開始した。

排ガス・騒音のない社会、働きがいのある社会の実現へ

 「GMSは自動車メーカーではないので、クルマを売りたいというロジックで考えていくのではなく、社会がモビリティに何を求めるか、利用者が何を求めるのかを考える」(中島氏)こととなる。それは、「排ガス・騒音のない社会、働きがいのある社会」だ。

 その妨げになっていたのが、ローン審査の問題だった。「クルマのローンは日本でも30%もの人たちが審査を通らない。フィリピンではローンを組んだことがない人が大半で、ローン審査をしても90%が通過しない」(中島氏)という。さらに「世界的に見ると、クルマを買いたくても買えない人が20億人いる。世界の自動車メーカーが頑張っても販売台数は年間1億台程度だが、実は世界でその10倍以上の人々が金融サービスを受けられないためにクルマが買えない」(中島氏)という課題が見えてきた。GMSは、この問題解決に取り組んだ。

 新興国のインドネシア、カンボジア、フィリピンの平均年齢は20代で、GDP成長率は5%を超えている。一方で、そこには越えがたい格差問題が生まれている。フィリピンにおけるGMSの主な顧客は、「トライシクル」という3輪バイクのタクシーの運転手で、主に貧困層がその職を担っている。フィリピンは公共交通機関がなく、熱帯で雨が降る上に治安が悪いため、トライシクルがラストマイルの貴重な足になっており、人口規模が同程度の日本のタクシーの10倍近い350万台のトライシクルが稼働している。

フィリピンのトライシクル(イオンフィナンシャルサービスの動画より)
フィリピンのトライシクル(イオンフィナンシャルサービスの動画より)

 ただし、彼らが運転しているのは自分のクルマでなく、半数以上はオーナーからデイリーレンタルしているという。「車両の所有はできず、ローンの審査も通過しない。終わりのない支払いで貧困層から抜け出せない。多くの人がいつまでもぼろぼろのクルマを借りて使っているから、騒音・排気問題も解決しない」(中島氏)という構造的問題が生じている。「このような今の時代の社会課題を解決することが、ベンチャービジネスとして必要なことだ」。

「遠隔制御デバイス」で新たなビジネスモデルを実現

 GMSは、「MCCS(Mobility-Cloud Connecting System)」というGPS機能のついたスマホサイズの遠隔起動制御デバイスを独自開発した。これをファイナンスに紐づけ、MCCSを車両に搭載することを条件に、今までローンが組めなかった方々に、ローンの機会を提供できるようにした。

 月額料金の支払いがない場合は、利用者に事前告知の上、クルマのエンジン起動を遠隔で制御し、公道でない安全な場所で、実質的にエンジンが掛からないようにする。起動制御中の車両であっても、銀行やコンビニで入金をすれば最短3秒でクルマが動くため、真面目に働き続けるモチベーションにつながり、支払いの滞りも少なくなる仕組みだ。この技術は、フィリピンのような電波状況の悪い地域でも安全に使える。それを今後、さらに多くの国に展開しようとしている。

独自開発の小型遠隔制御デバイス「MCCS」
独自開発の小型遠隔制御デバイス「MCCS」

 事業化にあたり中島氏は、「ビジネスなので、技術だけでは社会を変革するイノベーションには発展しない。特に金融機関がビジネスとして成立する仕組みを考えた」という。当初は大手金融機関がなかなか資金を出してくれなかったが、結果を出すことで現在はイオンフィナンシャルサービスを始め各国の金融機関と提携し、フィリピン、カンボジア、インドネシア、日本で事業を展開している。

 通常新興国でのローンビジネスでは、20%程度デフォルト(貸し倒れ)が起きるが、GMSが提供するサービスではそれが1%を切る(0.9%)。これは「日本と同等レベルで、新興国では信じられない数字」(中島氏)という。それをGMSは金融機関に対してデータとして示せる。「すべてログを持っているので、利用者が語らなくてもデータが語ってくれる」(同氏)ため、他の国でもファイナンス会社と組みやすくなる。

 「社会課題を解決する中で、経済合理性を生み出すというビジネス。こういったビジネスは世界に様々なニーズがあり、人々が求めてやまないと思う」(中島氏)。

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