ミドルリーダーが変革を牽引する電通デジタル&サムライインキュベートの企業DX化戦略

 朝日インタラクティブは2019年2月19日から20日までの2日間、都内で「CNET Japan Live 2019 新規事業の創り方 テクノロジが生み出すイノベーションの力」を開催した。本稿では電通デジタルおよびサムライインキュベートによる講演「日本流のイノベーションプロセス、成功の要件」の概要をお送りする。

電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスマーケティング事業部 事業部長 安田裕美子氏
電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスマーケティング事業部 事業部長 安田裕美子氏
サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬功一氏
サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬功一氏

 サービスエコノミー時代の新規事業の開発やマーケティング変革に従事する、電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスマーケティング事業部 事業部長 安田裕美子氏は、事業開発の相談を受けても頓挫するケースでは、「事業開発のプロセスそのものに課題がある」ことが少なくないと言う。同社は事業開発のプロセスを「なぜやるか。どんな価値を提供するのか?」の「Why」、「その価値を提供するべく、何の事業/サービスに取り組むのか?」の「What」、「実現のための具体的な手段を追求する」の「How」の3段階に区切り、「各プロセスを一体的に考えられていないか、一部だけ取り組んでいる」(安田氏)企業が多いと指摘する。

 その要因として「(1)デジタル化が進み、先の見えない時代であるが故に、自社が提供する価値や取り組むべき事業領域の策定が難しくなっていること、(2)取り組む事業を決めても、実現に向けたアセットやノウハウが自社になく具現化に至らない」ことが挙げられるとし、解決のためには「ウォーターフォール型の開発プロセスではなく、3つを行き来するアジャイル型の開発プロセスが重要」(安田氏)と提言した。これについてはサムライインキュベートの意見も合わせて紹介したい。同社も「面白いビジネスをスタートアップから提案しても『既に決まっている領域以外はやれない』はもったいない。実状に合わせて進める必要がある」(サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬功一氏)と述べた。

アジャイル型事業・サービス開発プロセスの概要(出典:電通デジタル)
アジャイル型事業・サービス開発プロセスの概要(出典:電通デジタル)

 さらに「開発したサービスを、どう単発に終わらせず自社の成長に繋げるか?」という課題感においては、「顧客の基盤化を念頭に置くべき」(安田氏)と電通デジタルは指摘する。具体的には、「新規市場/領域での成功確率をあげるには、既存事業の顧客と、データを仲立ちしたつながりを築いた上で周辺市場を取り込んでいく、というステップが『顧客』という資産をもつ大企業のやり方なのではないか」(安田氏)と強調する。

持続的な成長のための顧客の基盤化戦略(出典:電通デジタル)
持続的な成長のための顧客の基盤化戦略(出典:電通デジタル)

 また、「顧客の望む価値を自社内だけで閉じず、顧客目線で描き、点のサービスを面・線として提供すること(=バリュージャーニーの構築)」、さらに「顧客ID/データ、サービス、顧客体験を(PDCAサイクル的に)回し、『使い続けてもらう』ことで、顧客基盤盤石化を図ること」(安田氏)が持続的な事業成長のためには重要と語った。このような取り組みの実例として電通デジタルは、中国の保険会社の事例を紹介。これらの事例を踏まえてサムライインキュベートは、「我々も中国や米国のスタートアップ連携を増やしているが、現地のスタートアップは日本企業と組みたいという意見が多い。デジタル化も一巡して、日本から世界を変える優位な時代が間もなく登場する」(成瀬氏)と日本企業の新たな可能性を提示した。

中国の保険会社における事例(出典:電通デジタル)
中国の保険会社における事例(出典:電通デジタル)

 このように企業のイノベーション(変革)を推進しつつも、全社的取り組みに昇華し、イノベーションを生み育てていくフェーズでは、また異なる難しさが生じる。この課題に対してサムライインキュベート成瀬氏は、「新規事業が既存事業と同じ組織や機能体制で検討・実行されているケースが多い」と指摘する。

 日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)状況に目を向けると、電通デジタルの調査(2018年9月実施)によればデジタル変革に着手もしくは着手済みと回答した企業は76%(n=876)。計画進行中と回答したのは63%。つまり、24%は未着手となる。DX発展途上国と長年言われてきた日本企業も「我々も問い合わせをいただく企業のジャンルが変化してきた。5年前はグローバル企業がイノベーションに積極的だったが、今はジャンルを問わない。食品系やサービス系、エネルギー系企業など日本に根付く企業もスタートアップに興味を示している」(成瀬氏)と自社変革に能動的な企業が増加傾向にあることを示した。

 それでも実務責任者と経営層は、DXを推進する上での課題に対する意識のズレがある。この点について両社は、「日本企業の課題は‘自社をブレイクスルーできない’」こと。だからこそ、新規事業創出に適した組織の構築が必須であると指摘した。そのために、全社の戦略に寄与して変革全体の戦略を練りつつ管理する「イノベーションマネージメント」。時代変化に合わせたテクノロジや資産を活用してビジネスを更新する「アップデート領域」。既存ソリューションを置き換える新規事業創出を目指す「ディスラプト領域」を設けて対応すべきだと具体的な手法を語った。

イノベーション推進上の必要機能(出典:電通デジタル)
イノベーション推進上の必要機能(出典:電通デジタル)

 最後に両社は「日本企業のイノベーション推進には、足元の事業の課題や自社の強みを把握しながらも、ありたきビジョンを描いて着実にリードしていく、視野の広い‘ミドルリーダー’の力がますます重要になってくる。そのような方々のパートナーとなっていきたい」と締めくくった。

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