iPhoneは「小売」をどう変えたのか--Apple Pay担当バイスプレジデントが語る

 Appleが「iPhone」を発売してから10年が経った。スマートフォンとそこに搭載される新技術は、人々の生活やビジネスを大きく変えているが、それはショッピングも例外ではない。同社のApple Pay担当バイスプレジデントであるJennifer Bailey氏は1月、米ニューヨークで開催された小売業最大のイベント「NRF 2018」で、「モダンなショッピング体験」と題してスピーチし、モバイルの視点から小売業界に起きているトレンドについて語った。


AppleでApple Pay担当バイスプレジデントを務めるJennifer Bailey氏

 Bailey氏はまず、コマースにおけるモバイルの現状について話した。PC中心だったインターネットだが、「トラフィックでは、2016年にモバイルの利用がPCを上回った。コマースはどうかーー。すでに米国ではECの25%がモバイルだ」と説明。成長率はデスクトップの4倍で、物理的な小売(ブリック&モルタル)と比較すると10倍。2021年にはモバイルが最大のECチャネルになるとの予想を紹介した。なお、中国ではすでに逆転現象が起きており、ECの80%がモバイルとなっている。米国についても、Salesforce.comは先の年末商戦でモバイルのトランザクションが50%に達したと報告している。

 「世界でアクティブなiPhoneは10億台ある。モバイル端末は顧客とエンゲージする独占的な方法になる」と話すBailey氏。具体的に、「アプリ」「決済」「ロイヤリティプログラム」「店舗とモバイルの連携」の4つの視点で、Appleの技術が支援する新たなショッピング体験について語った。

 アプリについては、「デバイスで費やす時間の87%」を占めているとのこと。カメラ、位置情報サービス、ID、ARなど端末側の機能を利用できることから、革新的な体験をアプリで提供する事業者もある。Bailey氏が例に挙げたのがWarby Parkerだ。オンラインのみでメガネを販売する新しいモデルを持つ米国のベンチャーで、その後は物理ストアも開店している。

 Warby Parkerは最新のアプリで、True Depthカメラ技術を利用してユーザーに似合うフレームをオススメする機能を盛り込んだ。ユーザーはiPhone Xを構えて顔のマップを作成するだけ。アプリが独自アルゴリズムにより、最もフィットするフレームを割り出す。ユーザーは気に入ったフレームを選択し、Apple Payを使って購入。クレジットカード番号を別途入力する必要はないため、「購入までのステップを大幅に省略できる」(Bailey氏)。


True Depthカメラで顔のマップを作成すると、似合うフレームを提案してくれる

Apple Payボタンで簡単に購入できる

 iOS 11の新機能「ARKit」を利用しているのがWayfairだ。売上高は40億ドル、1030万人のアクティブ顧客を抱える同社は、共同創業者の1人がエンジニアということもあり、技術とデータによる新たなショッピング体験の提供にコミットしているという。今回、ARKitを使って家具を自分の部屋に置いた際のシミュレーションができるサービスを開発。「家具購入で最大の課題を解決した」と同社の最高製品&マーケティング責任者であるEd Macri氏は言う。決済はApple Payで簡単に完了、出荷後に地図上で配送状況を追跡できるサービスも提供する。


ARKitを使って、家具を自分の家に置くとどうなるのかをシミュレーションできる

 決済では、3年前に米国で開始したApple Payが主役だ。実店舗で端末をかざして決済する“おサイフケータイ”的な手法に目が行きがちだが、NRFではWarby Parker、WayfairのようにモバイルでのEC決済という流れで、Apple Payが言及されることが多かった。Apple Payの特徴は「チップの入った物理的なクレジットカードよりも安全、かつ高速」とBailey氏は話す。アパレルのLululemonは、アプリでのショッピングに導入しており、カートにわざわざ行くことなくFace ID認証によりApple Payで決済できるという。

 Bailey氏によると、Apple Payはスタート当時米国の3%の店でしか利用できなかったが、現在その比率は50%に達しているとのこと。「世界で最も受け入れが進んでいる非接触決済技術だ」と胸を張った。

 ロイヤリティカードについては、Apple Walletを利用したモバイル化が進んでいるという。たとえば、オムニチャネル展開するデパートKohl’sは、会員数3000万人を誇るロイヤリティプログラム「yes2you」を展開している。物理カードからApple Walletベースに移行することで、顧客は購入時にポイントの付与漏れがなく、Kohl’sは確実に顧客の購入データを得ることができる。同社は会員にyes2youをApple Walletに入れるように推奨するメールを送付、ボタンを押すだけでApple Walletに自分のyes2youのパスが生成されるようにしている。


Apple Walletのロイヤリティカード。カスタマイズ性にも優れる

 ドラッグストアチェーンのWalgreensも、8500万人のロイヤリティプログラムの会員にApple Walletを積極的にプッシュしている。Walgreensは決済ターミナルにロイヤリティソリューションを統合しており、POSでApple Pay決済を利用する会員の端末にダイレクトリクエストを送り、Apple Walletへの移行を促しているという。「ロイヤリティプログラムがモバイル化されることで、小売は顧客とのエンゲージをさらに強化できる」とBailey氏はメリットを説明する。


Wallgreensのデジタルロイヤリティカード

 店舗とモバイルでは、化粧品を取り扱うSephoraを紹介した。同社は、来店した顧客にメイクアップをするアーティストを店舗に配備しているが、ARを使ったアーティスト用のアプリを用意している。顧客の顔にバーチャルに口紅やアイライナーなどを施すとどうなるかを見せ、顧客が気に入ったものをアーティストが実際に施すというものだ。多数ある商品の中から似合う色を簡単に見出すのに役立っているという。

 Bailey氏は、Apple自身の取り組みも紹介した。Appleは全世界にApple Storeを構えるが、ストアのすべての予約をチームメンバーが管理できる「Concierge」、チームリーダーがストアのパフォーマンスを把握できる「Leader Board」など、スタッフのスケジュール、コミュニケーショントレーニング、在庫管理、POS、Geniousツール、リペアなど、さまざまなカスタムアプリでスタッフを支えているという。「物理店舗は、対面で顧客とエンゲージできる重要な場となる。アプリを利用することで、オペレーションをもっと効率化でき、顧客とのエンゲージにフォーカスできる」とBailey氏は語った。


Apple Storeのスタッフがアポイント管理に使っているという「Concierge」

 顧客側の取り組みとしては、Apple Storeで進めているオンラインとオフラインの融合を紹介した。AppleではApple Storeアプリで、ストアピックアップを選択した顧客に対して、商品の準備ができていることをプッシュ通知したり、Apple Walletを使って高速にピックアップできるように促している。実際に顧客がApple Storeに到着すると、位置情報を利用してプッシュ通知が送られてくる。タップするとQRコードが表示され、これを店員に見せるとオーダー内容が伝わる。


QRコードを店員に見せ、ピックアップのプロセスを短縮する

 「ピックアップからパーソナライズされた商品のレコメンドまで、新しい方法でサービスや商品を発見し、購入することができる。今後も開拓を続ける」とBailey氏は述べた。

 物理店舗のECや、逆にECでスタートした小売の物理店舗への拡大、さらにオムニチャネルなど、小売業界は複雑化している。小売業はスマートフォンのイノベーションを活用することで、新しい小売の形を実現できるとBailey氏は話す。「われわれ自身、小売業でもある。小売業のチャンスと課題を共有している」と述べ、集まった小売業の参加者にモバイルの活用を提案した。

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