バスの“危険運転”をIoTで予防--KDDIと小湊鐵道が実証実験の成果報告

 KDDIと小湊鐵道(こみなとてつどう)は12月12日、IoTを活用した路線バス危険運転予防の実証実験に関する説明会を実施。実証実験に至った経緯や、具体的な仕組みと成果などについて説明した。


KDDIとの実証実験に用いられた小湊鐵道のバス

 この実証実験は、5月14〜31日までの13日間にわたって実施されたもの。小湊鐵道が運行する路線バスにドライバーの顔を映すためのカメラを取り付け、5秒に1回ずつ自動的に写真を撮影。それをRaspberry Piとルータを経由して画像解析サーバに送信し、ドライバーの顔が規定の枠からずれているかどうかや、どのような感情変化があるかを検知する。あくまで運転中の変化を取得するため、写真を送るのは時速10km以上での走行中に限られるとのことだ。


運転手席の窓付近にカメラが装着されており、Raspberry Piを用いて5秒おきに写真を撮影し、ルータから画像解析サーバに送信する

 顔の位置が枠から大きくずれていたり、下を向いていたりすると、画像処理サーバが「問題がある」と判断し、その解析結果を再びバスに送信。車載のデジタルタコグラフで計測している車速や位置情報などと合わせてレポートを作成し、データ集積サーバに収集する。それを運行管理者がチェックし、ドライバーの“ヒヤリ・ハット”が起きる場所や時間などを分析することで、より効果的なドライバーへの注意喚起ができるという。


サーバで顔を解析し、下を向いているなど問題がある時はデジタルタコグラフの情報と合わせてレポートを作成する

 同種の取り組みは他にも存在するが、大きな違いは乗務員が何らかのデバイスを装着する必要がないこと。カメラを使うため乗務員のストレスが少なく、装着し忘れを防げることがメリットとなるが、一方でマスクをしている場合などは表情の検出がやや難しくなるようだ。

 今回の実証実験を提案したのはKDDI側とのこと。そしてシステムを開発に用いられたのは、KDDIのIoTソリューションの1つ「KDDI IoTクラウド Creator」だと、同社のビジネスIoT企画部 部長である原田圭悟氏は話す。


KDDIの原田圭悟氏

 KDDI IoTクラウド Creatorは、IoTの導入を検討している顧客に対し、アジャイル開発で2週間、途中計画を確認してもらいながら開発を進め、スモールスタートでIoTを活用したサービスを実現するもの。アジャイル開発は、システム開発前に顧客とサービスを検証し、仮説を変えるピボット(方向転換)ができることが大きな特徴の1つだと、原田氏は話す。

 KDDIは当初、小湊鐵道に対して観光バスの乗客の顔をカメラで分析して、顧客が喜ぶルートを作る仕組みを提案していたという。しかし小湊鐵道側から、バスの安全対策の方がはるかに重要だとの声が挙がったことから方針を大きく変更。同じカメラを活用しながらも、運転手のヒヤリ・ハットを検知するシステムの開発に至ったのだそうだ。


当初は観光バス乗客の感情分析を提案したが、小湊鐵道の要望を受けて途中で方針転換し、今回の実証実験に至ったという

 小湊鐵道のバス部 次長である小杉直氏によると、同社は鉄道会社であるものの、現在の主力事業はバス事業に移っており、路線バスだけでなく高速バスなどにも事業を広げているとのこと。そのため、同社にとって大きな課題となっているのは、バスの事故をいかに減らすかだという。


小湊鐵道の小杉直氏

 最近は高速バスなど長距離路線の利用が拡大したこともあり、バスの事故件数は増加の一途をたどっている。小湊鐵道が運行するバスにおいても、2017年に乗務員が運転中に急に体調を崩したことで、事故を起こしてしまった経験があるという。幸い大事には至らなかったそうだが、そうした経験を受けて改めて安全への取り組みを強化するに至り、事故を防止する「セーフティーファースト宣言」を打ち出して安全対策を強化しているという。

 一口に安全対策といっても、乗務員の健康管理などソフト面から、衝突軽減ブレーキの導入などハード面まで多岐にわたる。同社では安全対策のために大掛かりなコストをかけ、ドライブレコーダーやデジタルタコグラフを導入しているとのこと。ただし、最終的にバスを運転するのは乗務員であるだけに、乗務員への安全指導や教育が非常に重要で、この点に関してはまだ改善の余地があると小杉氏は話した。

 小湊鐵道では、デジタルタコグラフなどの情報をもとに乗務員が毎日日報を書き、それを基に指導する形をとっているとのこと。しかし、乗務員は基本的に顧客の安全を重視した運転をしていることから、デジタルタコグラフに大きく出てくるような急ブレーキなどを頻繁にするわけではない。

 また、人の記憶力には限界があり、午前中に起きたことを夕方には忘れてしまうことも多いため、紙ベースの日報で日常のヒヤリ・ハットを把握するのは難しいと小杉氏は話す。より確実に、ヒヤリ・ハットにつながる可能性のある情報を収集できる仕組みを求めていたことが、今回の実証実験へとつながったようだ。


すでに導入しているデジタルタコグラフを活用し、カメラやシステムなどを追加で用意することによって、乗務員のヒヤリ・ハットを把握する仕組みを実現しているとのこと

 13日間にわたる実証実験には10名の乗務員が参加し、合計で290の検知がなされたとのこと。その内訳は「顔位置のずれ」が123件、「表情異常」が121件、その両方が46件となっている。また、ヒヤリ・ハットは乗務員によって傾向に差がある一方、朝や午後一など、特定の時間帯に多い傾向もみられるとのことだ。


実証実験の結果。「ながらスマホ」が懸念される「下向き」は0件だったが、これは複数の乗務員に対応するため、顔のずれを検知する枠を広めにしていたためと推測されている

 この結果を受け、小杉氏は「(件数が)多いと感じた」と話しており、それらの中でヒヤリ・ハットにつながると判断したものは、教育映像資料として乗務員教育に活用していきたいと話した。今後は路線バスだけでなく、高速バスでも実証実験を進め、精度を高めて事例を増やすことで、ドライバーによる事故を未然に防ぐ取り組みを進めていきたいとした。

 KDDI側も、このシステムによる実証実験を他のバス会社にも提案し、「顧客からは価値があるとの評価を得ている」(原田氏)と話す。さらなる実証実験を重ね、商用化に向けた取り組みを進めていくとした。

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