謎だらけの訴訟劇--グーグル対Uber「自動運転車訴訟」

 前回に続いて、Alphabet傘下のWaymo(Googleの自動運転車開発部隊)がUberを訴えた「自動運転車関連訴訟」の話を取り上げる。今回は、提訴に至るまでの経緯や訴状のなかで大きく扱われていたLiDAR技術を中心に、疑問点(今後注目すべき点)をいくつか挙げる。

”犯行”から提訴まで

 Waymo側の訴状やブログをもとに書かれた各媒体の記事によると、Anthony Levandowskiが、Googleのサーバーから約9.7Gバイトもの機密情報データを自分が使っていた会社支給のPCにダウンロードしたのが2015年の12月だ。Levandowskiは、Google自動運転車開発プロジェクトの中核メンバーだった。

 この際、Levandowskiはダウンロードしたデータを外付けのドライブ(メモリもしくはハードディスク)にコピーした後、PC自体は初期化していたというから、かなりきな臭い感じがする。

 その後Levandowskiは、年明けの2016年1月14日にUber本社で同社の上級幹部と面会。具体的に誰と話をしたかは不明だが、このミーティングでUberから何らかの形で支援を得られると確信したのか、翌日には自分の会社を登記していた。この時登記した280 SystemsがのちにUberに売却したOttoになる。

 Levandowskiは1月下旬にGoogleを退社。WSJ記事では「会社登記から12日後」とされている。また「LevandowskiがGoogleに事前告知なしで退社した」との記述もBloomberg記事にある。

 Ottoの立ち上げが正式発表されたのが5月中旬。この時には「Googleの自動運転車開発プロジェクトの中核メンバーが独立して立ち上げたベンチャー」として比較的大きな注目を集めていた。また同社の技術を搭載した自動運転トラックのデモ走行動画も注目を集めるのに一役買っていた。なお、この時トラックに普通のナンバープレートが付いていたのを訝しんだ人間も一部にいた。

(Ottoのトラック公道走行デモ)

 そうして、UberがOttoの買収を発表したのが8月18日。買収金額は既報の通り6億8000万ドル。同時に、LevandowskiがUberに加入して自動運転車開発の責任者に就任することも明らかにされていた。

 この買収のタイミングに関して、「LevandowskiがAlphabetから最後の報酬を受け取った直後」だったという一節がWSJ記事にある。この受け取り日が具体的にいつだったかは不明だが、8月5日にGoogle自動運転車開発プロジェクトの最高技術責任者(CTO)であるChris Urmsonが退社の発表をしていたことも考え合わせると、7月末から8月上旬までの間であった可能性が考えられる。

 Waymoが、Levandowskiら元社員による不正な情報持ち出しに気づいたのは2016年12月のこと。「発覚」のきっかけは、同社の社員宛に間違えて送られてきた「Otto Files」という主題のメール。このメールの送り主はWaymoと取引していたLiDARメーカーの人間とされている。そのメールには、Ottoが開発したとされるLiDARの回路図が添付されていた、そしてそれが自社のものとよく似ていることを知ったWaymoが調査を開始した。

 調査の過程で証拠を固めていったWaymoは、2017年2月にネバダ州の運輸当局から問い合わせていた質問の回答を受け取った(ネバダ州はOttoが自動運転トラックのデモ走行をしていた場所)。この回答で、Ottoが「64チャネルのLiDARを自社で開発」していることがわかったことから、Waymoは提訴に踏み切ることにした(提訴の日付は2月24日)。

「64チャネルLiDAR」が提訴の決め手に

 Waymoが今年初めのCES開催前後に、「高価なLiDARを自社開発のものに切り替えた結果、コストを約10分の1に圧縮することができた」といった発表をしていた。LiDARは簡単にいうとレーザーを使った3Dスキャナである。Googleなどの自動運転車のボディ上に突き出ており、走行時にはクルクル回転しているあのセンサーのことを指す。

(Ford車に搭載されたVelodyne製LiDARの紹介動画)

 この話題に触れたArs Technica記事には、「Velodyne製のHDL-64E LIDARという製品は7万5000ドルもする」と書かれてある。また、今回の件に関して出ていたBloomberg記事には「Velodyneの製品は、16チャネルの安いものでも約8000ドル、64チャネルの高性能な製品は5万ドル以上もする」との記述がある。

 自動運転車を何千〜何万台も製造・運行しようとすれば、まず課題となる点のひとつがこのLiDARのコスト圧縮、とも考えられる。また「Model 3」を本体価格3万5000ドルで販売しようとしているTeslaが、LiDARなしで自動運転技術を実現しようとしていることも思い出される。

 Ottoによる「64チャネルLiDARの自主開発」が提訴の決め手になったと指摘しているBackchannel記事には、同分野の専門家の話として「現在出回っているLiDARの多くは32チャネルのものであり、それに対してより高性能な64チャネルのものなら、地面を弾むボールなど小さくて動きの素早いものまでチャッチできるようになる」という説明が出ている。ただし「LiDARから出るレーザー光線の数や光線の照射速度などは、誰が開発したかを特定する決め手にはならないと思う」とするコメントも付されている。

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