本題に入る前に、1つだけ弁解じみたことを書く。
このレビュー記事を書くにあたって、改めて気付かされたことがある。それは、アップルが決してシングルボタンのデザインを捨てたわけでなない、ということだ(大半の読者諸氏にはどうでもいい事柄かもしれないが、Mighty Mouseの発売を伝えるCNETの翻訳記事に「1ボタンを捨てた……」という見出しを付けた当人として、この点を強調しておきたいと思う)。
このことに気付いたのは、以下のコメントを再度読み返したからだった:
AppleのDavid Moody(Mac製品マーケティング担当バイスプレジデント)は、Mighty Mouseについて、従来のシングルボタン(マウス)を好むユーザーと多機能性を求めるユーザーの両方を満足させられるようにデザインされていると述べている。「われわれは、シングルボタンを好む人たちの経験を台無しにしたくなかった。市場にはたくさんのマルチボタンマウスが出回っているが、これらにはどこかしら複雑な部分がある(のが問題だ)」[*1]
実際に、オンラインのAppleStoreでも、Mighty Mouseはいまだにオプションの扱いで、キーボードとマウスが付属しないMac miniでこそ、これを含むキットが選べるようになっているが、iMac G5などにはそういうキットすら存在しない(つまり、別売りの単体で買うしかない)。つまり、いまだにマックではシングルボタン・マウスが基本と考えられているということだろう。もっとも、当初はオプションとされていたAirMac(Wi-Fi)やBluetoothなどがその後ほぼ標準的な機能として内蔵された点を踏まえると、このMighty Mouseがデフォルトとして付属してくるようになるのも時間の問題かもしれないが(……そうなることを期待する)。
先に発表された、インテル・プロセッサへの移行が端的に物語っているように、近年のアップルの姿勢には教条的な部分が影を潜め、とても柔軟な部分が目立つようになっている。その点を考え合わせると、アップルにとって、このシングルボタンが実現する「使いやすさ」というテーゼの重要さが、なおさら際立ってくるように思える(ただし、「世の中のパソコンユーザーの90%以上が、『2つ(以上の)ボタンの世界」に適応している現実を踏まえると、はたしてこのテーゼがどこまで有効なのか?」という疑問、もしくはうがった見方も当然存在すると思われる)。
ところが、そこへ「マルチボタン」というアンチテーゼ──新しい時代の産物が登場する。いまや、スクロールホイール付きの2ボタンマウスはごくごく平凡な品と化し、最先端をいく(無論、だからといって優れているとは限らない)レーザーマウスなどには8つもボタンが付属するものさえある(上記のコメント通り、まさに「複雑な代物」と化している?)。これらに共通するのは「多機能性」、つまりいったん慣れてしまえば、断然便利になるという点だ。
こうなると、ふつうは「シンプルさ=使いやすさ(=迷いがない、という点で)」というテーゼ(正)と、「(複雑さと引き替えの)多機能性」というアンチテーゼ(反)が衝突して、ユーザーはどちらを優先するかで頭を悩ますことになる。事実、アップル製品の大きな魅力であるデザインの相性まで含めて考えると、せっかく手に入れたiMac/Mac miniや純正キーボードとぴったりマッチするマルチボタンマウスが見つからず、さりとてシングルボタン・マウスには戻れず……という事情から、何らかのサードパーティ製品で妥協していたユーザーも存在するはずだ。
ここで、あっさりと「宗旨替えしました」「新たな選択肢をご提供します」といって、ふつうにマルチボタンマウスを出しても、何の不都合もないだろう……と、そうした思想面(?)にはあまりこだわりのない筆者などは思ってしまうのだが、しかし敢えてそんな「易き道」を選ばなかったところに、久々にアップルの持つ「気骨」みたいなものを感じてしまった。少し大げさな喩えだが、アップルは、スクロールボタンやタッチセンサーといった新しい仕掛けを使って、マウスをめぐるこのテーゼとアンチテーゼのせめぎ合いを、より高次の段階へと見事に止揚(アウフヘーベン)させた。Mighty Mouseはそのジンテーゼ(合)の具体形といえると思う(この喩えがなんだかわからないという方は、文末の説明[*2]を読んでみてほしい)。
……前フリがだいぶ長くなってしまった。そろそろ本題に入らなくてはいけない。
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