Mac miniは『トロイの木馬』となるか アップルコンピュータ 「Mac mini」 (後編) - (page 2)

坂和敏(編集部)2005年03月28日 00時00分
Apple
M9686J/A
内容:WindowsユーザーからMacユーザーへのスイッチ(乗り換え)という「表」の役割以外にも、「Mac mini」にはもう1つ、「トロイの木馬」としての役割があると推測される。その役割とは、Macプラットフォームのリビングルームへの進出だ。

リビングに持ち込む

 これだけ小型の筐体で、しかもワイヤレスのキーボード&マウスが使えるとなると、リビングルームに持ち込んでいわゆる「10フィート・エクスペリエンス」の用途にも使ってみたくなるのは人情というもの(実際、流行の薄型テレビのなかには、本体下部のテレビ台とのすき間に、「Mac mini」がすっきりと収まるものも少なくないのではないか)。

 この際に1番大きな焦点になるのは、テレビ放送への対応をどう考えるかだろう。ホームテンターテインメントの主な要素のうち、音楽と写真、それにビデオの編集とDVD作成はすべて「iLife '05」で対応できる(ついでに「GarageBand 2」を使った音楽制作も)。無論DVDの再生も可能なのだから、それで十分という考え方もできなくもない。それでも、せっかくリビングルームに持ち込んで、AVホームネットワークのコントロールセンターとして使うのなら、テレビとの連動−−もっと具体的にいえば、DVDレコーダーとしても利用できるものであってほしい。

 ただし、あくまで個人的な憶測でいうと、「Mac mini」に限らず、「Mac OS X」というプラットフォームがテレビ放送に対応するには、いましばらく時間がかかるように思える。

 このところのアップルの動き──具体的には「iMovie HD」でいち早く高品位テレビ(HDTV)映像に対応したこと、さらには先週ついに「Blu-ray Disc」の支持を表明したこと(これについては、ピクサーのパートナーであるディズニーが先にBlu-ray陣営への参加を決めていたことを踏まえると順当な動きといえる)を考え合わせると、アップルがHDTV普及時を視野に、今後の映像ソースに対する布石を敷いているのはほぼ間違いないと思える。ただ、これを裏返すと、特に米国でのケーブルテレビを中心としたデジタル放送への移行がさらに進み、その環境が整ってくるまでは、アップルが積極的な動きをみせる可能性は低いということになる。

 彼の国の放送事情について熟知するわけでなないので、ここでは詳細は割愛するが、あちらではケーブルテレビ各社が契約者囲い込みのためにセットトップボックス(STB)を使っているなどの事情で、統一の電子番組表(EPG)さえ作りづらい状況らしい。ところが、米連邦通信委員会(FCC)がデジタル放送への移行促進をねらって出してきた「CableCard」──これがあると、スクランブルのかかったデジタル放送を簡単にみられるようになるとのことなので、日本の「B-CASカード」と似たような役目もあるらしい。これによって、各社のSTBが不要になるとのことで(ちなみに現行のSTBの料金が約7ドル/月程度なのに対し、CableCardは2ドル程度で貸与されるという)、ケーブルテレビ各社(キャリア)はFCCの意向などほとんど無視して、このカードを積極的には打ち出しておらず、これが普及するまでには数年かかりそうだということらしい。なお、契約者急増中の「TiVo」でも、またマイクロソフトの「Windows XP Media Center Edition」も、このカードへの対応はこれからになるという。

 こうした事情により、アップル本体がこの分野で腰をあげるまでにはもう少し時間がかかる(あるいは、まったく腰を上げないかも知れない)。日本のコンシューマ向けPC市場に限れば「テレパソ」全盛の現時点で、この部分の欠落が目立つのも仕方ないが、しかしここは思い切りよく「割り切る」か──各家電メーカーのDVDレコーダーの価格と機能を考えれば、それは十分に懸命な選択だろう。もしくは、サードパーティに期待するかのいずれかになる。

 個人的にひそかに期待しているのは、「Mac mini」のデザインと統一性を持たせた素(す)のAV用NASが登場することだ。イメージとしては、すでにパイオニアがHDDレコーダーの一部で採用しているやりかた──つまり、まだ割高なデジタルチューナーについてはそれ自体には搭載せず、かわりにiLINK(FireWire)で接続したデジタルテレビのチューナーを利用する、というもの(「素」というのはそういうことだ)。家庭用のNASも兼用できるように250GB程度のHDDを積んでいて、独自の軽量なOSで動作し、テレビ側から信号が送られてきたらそれを記録する、というベーシックな機能だけでいい。

 基本的には「観たら消す」のタイムシフト用で、DVDへの書き込みや細かな編集機能などはMac側に任せられるようにする……。これだと、例えば録画中はテレビ側のチャネルを選んだ局以外には切り替えられなくなるなど、人によっては大きな不便と感じる部分も出てくるだろう。しかし、ふだんはBS放送で映画とスポーツを観るくらいの私には、たぶんこういうものが一番重宝すると思える。

 ちなみに、テレビとの接続に関しては、現状でDVI、HDMI、D-sub15ピン(ともにデジタル)、Sビデオ(ともにアナログ)経由という4種類の選択肢がある。雑誌媒体の特集やウェブ上にある個人ユーザーの実験の結果を総合すると、このうちDVI端子もしくはD-sub15ピン端子での接続であれば、概ねきちんとした表示が可能なようだ。なかにはHDMI-DVI変換ケーブルを介した場合でも問題なく表示できるテレビもあるとのこと。これらの端子を備えた機種も増えてきていることから、「Mac mini」の「出力側」については、比較的難易度が高くないといっていいだろう。

 さらに、これもあくまで憶測でしかないが、雑誌Fortuneは先頃掲載したアップルの特集記事のなかで、今年アップルがワイヤレスでHDTV信号を送れるような新技術を製品化する可能性に触れていた。つまり、すでに音楽分野において「AirMac Express」で実現しているのと同じことを、映像(や写真)についてもできるようにする、ということだろう。そうなると、コントロールセンターとなる「Mac mini」に保存されたAVコンテンツは(直接接続した)メインのテレビモニターだけでなく、家中の他のテレビやMacからもアクセスできるようになる。現時点ではあくまで可能性に過ぎないかも知れないが、こんな「リビングPCの夢」をぜひ実現してほしいものだと私は思う。

まとめ:誰に向いているか

 「Mac mini」の場合、どんなタイプの潜在ユーザーに向いているかという設問はあまり意味をなさないと思う。むしろ、欲しいと感じた人はみな手に入れて損はないのではないか(無論、前編で記したように、積極的に「割り切る」ことを評価できる人のほうが向いているという部分は確かにある)。もちろん、この価格なら清水の舞台から飛び降りる必要もない。

 それでも、あえて言えば、AVコンテンツの制作などでより能動的にMacを使うという人には、やはりG5チップを積んだiMacのほうがよいのかもしれない。

Mac miniのデザインは見た目の快楽だけでなく、ユーザーの創発性をも促すデザインといえるだろう

 また、もうすぐ新学期になるが、子供に専用のマシンを持たせるという親御さんの場合は、これまで自分の使っていたマシンを譲り渡し、自分で「Mac mini」を新調するという手もありそうだ(無論、非難の声は覚悟の上で)。

 いずれにしても、いろいろな場所においても違和感のないこのマシンをどう利用するかについては、文字通りユーザー側の想像力に委ねられると思う。

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